全 情 報

ID番号 05714
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 名古屋西労働基準監督署長(西枇杷島交通)事件
争点
事案概要  一昼夜勤務を終え会社で担当車両を洗車中に心筋梗塞により死亡したタクシー運転手につき、業務災害か否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法12条の8第1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1990年7月20日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 14 
裁判結果 棄却
出典 労働判例567号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 昭和五三年当時の実働一六時間制の勤務体制は、タクシーの勤務体制の主流にあり、原告の勤務体制そのものが実働時間をみる限り特殊な勤務体制にあったわけでなく、その勤務実績は同僚と比較して際立っていたものの、その同僚に対する訴外会社の労務管理が厳格でなかったことに照らすとそれだけで過重な労働を強いられていたと判断することはできず、他企業との比較では錠平の労働が過重といい切れない面もあり、また、Aは自らの意思で一八勤及び一三勤の勤務体制を選択し、労働による疲労及び蓄積疲労を避けるための自助努力をし、連勤を避け三回続けて勤務したこともなかったものである。また、流し営業も七割程度で、それが労働の過重に強く影響しているとも考えられない。
 その他の冠危険因子についてみるに、喫煙習慣についてはAはこれを有するとみなければならない。遺伝的素因についても、家族の病歴の点のみからその存在を否定することはできない。
 以上を総合すると、原告が主張するAの業務と疾病との関連性は、業務が疾病の一因となっている可能性を示すに留まり、合理的関連性としても不十分であり、まして両者の間に相当因果関係の存在を認めることはできない。〔中略〕
 最後に、訴外会社の従業員に対する健康管理について言及する。確かに訴外会社の健康管理には杜撰な面も認められるが、家庭医にあってもAの心筋梗塞進行を疑う所見を発見できず、それに対する有効適切な処置をとれずにいたことに照らすと、Aの心筋梗塞の発症に訴外会社の健康管理の杜撰さが影響していたものと言うことはできない。
 以上を総合して考えると、Aは、体質的素因を中心に、加令、喫煙等いくつかの要因が競合して冠状動脈のアテローム性硬化を徐々に進行させ、その自然的経過として心筋梗塞の発症をみるに至ったものであって、タクシー運転手としての業務に伴う精神的ストレス、肉体的疲労の蓄積が冠状動脈硬化症を自然的経過を超えて増悪させたとは認めることはできず、その発症がたまたま業務遂行中であったものであり、業務と心筋梗塞発症との間に相当因果関係があるとはいえない。
 そうだとすれば、Aの死亡が業務上の事由によるものであるとは認められないとして、原告に対し遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨を決定した本件処分は適法といわなければならない。