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ID番号 05720
事件名 公務外認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金京都府支部長(城陽市教育委員会)事件
争点
事案概要  教育委員会の教育次長の職にあった京都府職員が会議中に脳動脈瘤の破裂により倒れ、半月後に脳ヘルニアで死亡したケースにつき、公務災害でないとした地方公務員災害補償基金支部長の処分の取消が争われた事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1990年10月23日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 20 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ753号126頁/労働判例574号45頁/労経速報1424号3頁/判例地方自治82号28頁
審級関係 控訴審/大阪高/平 3. 9.13/平成2年(行コ)67号
評釈論文 村田哲夫・判例地方自治92号62~66頁1992年3月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 地公災法三一条にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に因り死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、若しくはこれらにより死亡したものを指し(地方公務員法四五条一項参照)、右の死亡、負傷又は疾病と公務との間に相当因果関係のあることが必要であり、かつ、これをもって足る(最判昭五一・一一・一二集民一一九号一八九頁参照)。そして、公務上災害であることを主張する原告において、この事実と結果との間の相当因果関係を是認しうる高度の蓋然性を証明する責任、即ち、通常人が合理的疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる程度の立証をする責任があると解するのが相当である(最判昭五〇・一〇・二四民集二九巻九号一四一七頁参照)。
 なお、公務災害と認めるのに必要な相当因果関係は、使用者である地方公共団体において、予見していた事情、及び健全な常識と洞察力のある者が認識し得た一切の事情を前提として、公務によって所属職員の疾病または死亡が生じたもので、これが公務に内在し又は通常随伴して生ずるといえるものであること、即ち、公務なければ疾病、死亡がないといえる関係、または、それが同種の結果発生の客観的可能性を一般的に高める事情にあると判断されることが必要である。
 原告は、公務と負傷、死亡との間に一定の関連がある場合には補償されねばならないと主張するが、地公災法が、国家公務員災害補償法、労働者災害補償保険法と同様に、労働基準法の使用者による災害補償制度を基礎に発展してきた労災補償制度の一環であること、現行の労災補償制度は、労働者の私生活領域における一般的事由により生じた傷病と区別して、労働関係に内在ないし通常随伴する危険により生じた労働者の死亡、負傷等の損失を、その危険の違法性や使用者の過失の有無を問わず、いわゆる従属的労働関係に基づき労働力を支配する使用者の負担において補償しようとしたものであることに照らし、地公災法による職員の災害補償の対象は公務により生じた死亡等に限られるのであって、公務に関連する発症ないし死亡のすべてを補償の対象とすることはできない。したがって、原告の右主張は採用できない。
 また、被告は、死亡が公務上と認定されるには、一定の時間的限定をもった明確な事由、即ち、災害に該当する事実の存在が必要であると主張するが、この意味における災害的出来事の存在は、これをもって相当因果関係の存在を明確に認識するための一要素に過ぎず、地公災法三一条などが補償の要件として単に「公務上」の死亡等と挙げるのみで災害的出来事を必要としていないことなど実定法上の根拠を欠くこと、現行労災補償制度が、沿革的に災害(施設欠陥、天災地変、第三者の行為等)と業務上疾病(災害性疾病と職業性疾病)とを併せて対象としていることなどに照らすと、公務員の死亡、負傷がかならずしも災害的出来事によるものでなくとも、公務との間に相当因果関係がある限り、「公務上」の死亡と認めることができるというべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 被災職員は、昭和四三年から昭和四八年にかけて過重な職務の積み重ねで疲労が重なり、さらに、四九年以降継続して有害な強いストレスの暴露を受け、とくに、昭和五二年五月の城陽市への配置換え以来質的量的な職務の過重により精神的ストレスと疲労が蓄積し、かつ職務多忙のため迅速適切な治療を受けられないまま、高血圧症が進行、悪化し、発症前日、当日の超過密で困難な職務と強いストレスのため、当日の部長会の発言直前には、その発言内容の重要性にも照らし、極度の精神的緊張が生じたため、これが強い血圧上昇をもたらし、脳動脈瘤破裂を誘発したものであって、このような被災職員の過重な職務の継続と血圧を中心とした健康状態の推移に照らすと、使用者である京都府ないし城陽市において、前示の過重な職務が、被災職員の健康に多大の影響を及ぼすことを認識し、又は客観的に認識可能であったというべきであるから、被災職員の公務と死亡との間に相当因果関係があるものと推認することができ、この認定に反する〈証拠略〉は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに採用し難く、他にこれを覆すに足る証拠がない。〔中略〕
 よって、公務と死亡との因果関係を否定してなした本件公務外認定処分は違法であって、その取消を求める本訴請求は理由がある。