全 情 報

ID番号 05792
事件名 割増賃金等請求事件
いわゆる事件名 名鉄運輸事件
争点
事案概要  路線貨物自動車運送業に従事する従業員が、割増賃金の計算上は、職務給を固定給として時間外単価に算入すべきである等として、未払い分の割増賃金の請求を行なった事例。
参照法条 労働基準法37条1項
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 1991年9月6日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 4305 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 タイムズ777号138頁/労働判例610号79頁/労経速報1475号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 労基法三七条一項の規定による割増賃金の計算は、通常の労働時間の賃金の一時間当たり金額に二割五分を最低とする一定の割増率及び労働時間数を乗じて行われ、労基法施行規則(規則)一九条はその一時間当たり金額の求め方を賃金の種類ごとに規定しているが、日によって定められた賃金についてはその金額を一日の所定労働時間数で除した金額(同条二項)、月によって定められた賃金についてはその金額を月における所定労働時間数で除した金額(同条四項)であるのに対し、出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額(同条六項)である。右規定の趣旨は、請負給の場合には一定の労働時間に対応する一定の賃金が定められておらず、常に実際の出来高等に対応する賃金が請負給として支払われるから、時間当たり基礎賃金額の計算方法上も日給、月給等の場合と異なり、実際の支払賃金総額と総労働時間数によって算定することとしたものである。総労働時間数は実労働時間の総数であり、所定労働時間の内外を問わず、時間外又は休日労働時間数も含まれる。また、日給制や月給制によって賃金が定められている場合には、通常の労働時間の賃金に二割五分以上の加給をした金額が支払われなければならず、一時間当たりの金額に掛けるべき割増率は一・二五であるのに対し、出来高払制その他の請負給制によって賃金が定められている場合には、時間外における労働に対しても通常の労働時間の賃金(右割増率の一に相当する部分)は既に支払われているから、割増部分に当たる金額、すなわち時間当たり賃金の二割五分以上を支給すれば足りるのである。
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 (一) 被告の昭和五四年四月一六日改正の旧給与規程には路線乗務手当という賃金項目があり、会社の指示によって路線運行車に乗務した職員に対し、運行に付帯する作業を行った場合その作業内容に応じて支給するものとされていた。路線乗務手当は、運転手当(就行路線の片道運転手当算定粁程及び車種に応じて支給する)、荷作業手当(積込み又は取卸し作業に従事したそれぞれの重量に応じて支給する)、直集配料(自車又は他車の積載貨物を直集又は直配した場合、その作業内容に応じて支給する)、途中積卸し料(運行途中において追積み、荷卸しをした場合、その店所数に応じて支給する)、横持料(集約等を目的として店所間の横持作業を行った場合、その重量に応じて支給する)、待機手当(業務の都合により、発着地において運行を待機し荷扱い等の作業に従事した場合に支給する)、ワンマン運行手当(交替運転士又は助手を添乗させないで運行した場合、運転粁に応じて支給する)、けん引手当(トレーラー車をけん引して運行した場合、そのけん引粁に応じて支給する)からなり、時間外勤務時間に対する割増相当額として規定していた
 (二) 旧給与規程から本件給与規程への改正に当たり、時間外勤務時間に対する割増賃金については労基法所定の計算式で算出することとしたため、路線乗務手当は時間外勤務時間に対する割増相当額としては不要になったが、被告は、直集配料、途中積卸し料、横持料、待機手当については、それぞれの作業を賃金面で評価する必要があると判断し、同一名称で基準賃金内の給与項目である運行能率給(乗務諸手当)として残し、支給基準も同一とした。運転手当、荷作業手当、ワンマン運行手当、けん引手当については、深夜勤務時間に対する割増賃金を労基法所定の計算式で算出し支給する原資を得るためには廃止の必要があったが、一キロメートル走行すれば何円という形で端的に仕事に対する評価がなされる賃金項目の廃止については、乗務員の抵抗が大きかったため、被告は、運転手当等の支給基準を半額にして深夜勤務時間に対する割増相当額として残すことにより双方の要求を満たすこととした。
 右認定事実によれば、運行手当が独立した歩合給たり得る実質を有することは否定し得ないが、同時にそれは、仕事の性質上恒常的に深夜勤務をせざるを得ない路線乗務員に対してのみ支払われるものであり、集配運転士を含むその他の職員には本来支給されないものであること等に照らすと、就業規則においてそれが路線乗務員についての深夜勤務時間に対する割増賃金であることを明示することにより、賃金体系上そのようなものとして位置づけることも法律上可能であり、本件においてこれを違法とするに足りる事情を認めることはできない。
 ところで、労基法三七条は使用者に対し深夜労働に対する割増賃金の支払を命じているが、同条所定の額以上の割増賃金の支払がなされる限りその趣旨は満たされるのであり、同条所定の計算方法を用いることまでも要求するものではないから、労働者は使用者に対し、法所定の計算方法による割増賃金額が支払額を上回る場合にその差額の支払を請求することができるにとどまる。