全 情 報

ID番号 05802
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 室蘭労働基準監督署長(村井金物店)事件
争点
事案概要  腎不全により入院していたじん肺患者の急性肺炎による死亡につき、業務災害でないとした労働基準監督署長の処分が争われた事例。
参照法条 労働基準法施行規則35条
労働基準法施行規則別表1の2
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1991年9月30日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行コ) 2 
裁判結果 棄却
出典 労働判例602号68頁
審級関係 一審/05216/札幌地/平 1. 6.28/昭和59年(行ウ)1号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 亡Aの腎疾患は昭和五五年七月から同年九月五日ごろまでの短期間に早い速度で増悪したものであり、このまま放置すれば、肺炎に罹らなくても、近々腎不全に至るものであることが認められるが、しかし、同証言によれば、透析等の治療により必ずしも右の腎不全だけで致死的な状態に至るとまでいうことはできなかったものであり、他方、緑膿菌は抵抗力の弱っている者に対して肺炎の原因菌になるものであるが、緑膿菌による炎症が生じた場合、この炎症を完全に押さえることは非常に困難であることが認められるから、肺炎に罹患したことが必ずしも致死的ではなかった腎疾患を急激に悪化させて尿毒症に至らしめたものであるというに妨げない。
 そして、じん肺に罹患している者の気道や肺は外からの菌の侵入に対しこれを排除する抵抗力が弱く、細菌に感染し易いことは前認定のとおりであるから、亡Aもじん肺による肺の荒廃、抵抗力の低下によって肺炎に罹患したものと認めることができる。
 もっとも(人証略)によれば、亡Aの細菌に対する抵抗力の低下には腎疾患もそれなりに寄与していることは否定できないことが認められるが、しかし、〔中略〕亡Aが高度のじん肺の症状にあったことによる寄与が大きいことは否定できないことが認められ、(人証略)も、亡Aは腎不全のため細菌に感染しやすい状態にあったものであるが、感染した場合にはじん肺のため荒廃している肺に発症する可能性が強い旨証言する。
 したがって、結局、亡Aは、じん肺による肺の荒廃、抵抗力の低下のために肺炎に罹患し、これにより必ずしも致死的ではなかった腎疾患を急激に悪化させて尿毒症に至らしめ、これにより死亡したものであると認めることができる。
 そうすると、亡Aの死亡の要因としては、じん肺が相対的に有力な要因であると認めるのが相当である。