全 情 報

ID番号 05810
事件名 雇用関係存在確認請求事件/損害賠償請求事件
いわゆる事件名 光和商事事件
争点
事案概要  貸し付け業務全般を統括する常務取締役として、会社に対して部下の業務遂行を監督する義務を負っていた者が、部下の虚偽報告を虚偽と知りつつ黙認し、未回収金を発生させたとして懲戒解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1991年10月15日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 44 
平成1年 (ワ) 1591 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報1444号19頁/労働判例598号62頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 右認定によれば、原告は、被告の貸付業務全般を統括する常務取締役として、被告に対し、訴外Aの業務遂行を監督し、これを始動すべき職務上の義務を負っていたことが認められる。
 しかるに、前記認定によると、原告は、訴外Aが貸付の内部条件となっていた本件土地に対する抵当権設定登記を行わず、同土地の権利証を訴外Bに返還している事実を知っていたにもかかわらず、訴外Aが幹部会において本件貸付につき正当な手続がなされているかのごとき虚偽の報告をするのを黙認し、同人に対し登記手続を取るよう忠告はしたものの、同人に請われるまま訴外Cに対し右事実を報告することなく漫然と印鑑証明書の有効期限を徒過し、しかも、訴外Aが一二月一四日に訴外Cに対し右事実を報告しようとしたのを押し止めることにより、被告が本件土地に対する抵当権設定登記をなしうる最後の機会を失わせたことが認められ、右事実からすると、原告は、前記職務上の義務に著しく怠り、被告の担保権設定の機会を奪いこれにより前記未回収金を発生させたものといわざるを得ない。
 これに対し、原告は、本件土地に対する抵当権が未設定である事実を知ったのは訴外Aから私的な相談を受けたからに過ぎず、原告は職務行為の一環として右事実を知ったわけではないとして、原告に義務違反はない旨を、また、被告の業務体制が整備されていれば、右抵当権未設定の事実は原告からの報告がなくても容易に知り得たはずであるとして原告の義務違反の程度は軽微であった旨を各主張する。しかし、原告が訴外Aの上司としてこれを監督すべき立場にあったことは前記認定のとおりであること、さらに、仮に被告の業務体制に不備であったとしても業務を統括する立場にあった原告の責任がこれを理由に軽減されるはずがない(体制が不備であれば、原告個人が果たすべき役割はそれだけ重大になりその責任は重くなる。)ことからして、右原告の主張は採用できない。
 成立に争いがない(証拠略)によると、被告の就業規則には、懲戒解雇事由として「故意または重過失により営業上の事故を発生させ、会社に重大な損害を与えたとき」との条項が定められていることが認められ、2で認定した事実によると、原告の本件貸付に関する行為は、右条項に該当するものとと(ママ)して懲戒解雇事由に該当するものと認めるのが相当である。