全 情 報

ID番号 05815
事件名 地位保全金員支払仮処分異議事件
いわゆる事件名 三洋電機事件
争点
事案概要  契約期間一年の定勤社員として雇われたパートタイマーが、会社の経営内容の悪化を理由として雇止めされ、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 1991年10月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (モ) 50648 
裁判結果 一部認可,一部却下
出典 労経速報1443号3頁/労働判例595号9頁
審級関係
評釈論文 青野覚・季刊労働法163号206~208頁1992年5月/川口美貴・日本労働法学会誌80号113~122頁1992年9月/中窪裕也・ジュリスト1034号146~149頁1993年11月15日/渡邉裕・平成3年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1002〕201~203頁1992年6月
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 定勤社員契約は、一年という期間の定めのある労働契約にほかならないというべきであって、これが当初から期間の定めのない労働契約であったということができないことは明らかであるし、反復更新を繰り返したとはいえ、そのことのみによって、期間の定めのある労働契約が期間の定めのない労働契約に転化したということもできない。更に、右の諸事情とりわけ定勤社員契約の更新が必ず部門長会議による検討を経て事業部長により決定され、かつ定勤社員の個別の意思表示により右契約を締結するという手続が一応履践されていたことに照らせば、定勤社員契約が、その実質において期間の定めのない労働契約と異ならない状態で存在していたということもできないというべきである。
 しかしながら、定勤社員契約にかかる契約書には一年間の契約期間の明示とともに、「この契約は、会社の都合により更新されることがある」との、定勤社員契約の継続をなかば期待させるような記載がされているところ、A地区において定勤社員制度が創設されてからは勿論、臨時従業員制度が創設されてからも、被申請人の一方的な都合により臨時従業員の雇止めが行われたこともなく、右制度創設当時は、被申請人の全社的な売上高その他の事業規模が膨らんでいる頃で、かかる単純反復作業を行う臨時従業員の需要が極めて旺盛であったことが窺えるし、とくに定勤社員については、その定年と俗称される年齢まで勤務を続けられると受け取れるような説明を被申請人がしたことも前記のとおりであるから、被申請人としても、定勤社員につき文字どおり一年限りで雇用関係を終了させようと考えていなかったことは明らかであり、また、申請人ら定勤社員の側としても、かなり継続的な雇用関係が維持されることを期待していたものということができる。また、定勤社員は、臨時社員として二か月の期間の定めのある労働契約を連続して少なくとも一一回更新し、二年以上継続勤務してはじめてその資格を得られるものであること、定勤社員になる際には簡易とはいえ適性検査を受けなければならないのに、その後の契約更新の際には右のような検査を受けることなく、単に被申請人から交付を受けた書面に署名押印して契約継続の意思を明らかにするだけで契約更新を繰り返すことができたこと(前記のとおり、A地区の事業部において、従来定勤社員が契約更新されなかった事例はない。)、申請人らはいずれも臨時社員として二年以上継続勤務した上、決して短いとはいえない期間の契約を一回以上更新した経験を有すること(申請人らが臨時従業員として採用されてから本件雇止めに至るまで最長で一一年一〇か月、最短で六年五か月も雇用を継続しており、更に、定勤社員になってからでも二年ないし六年を経ている。)、申請人らの従事していた作業が単純反復作業であるとしても、商品製造という事業部本来の目的のために直接に必要不可欠のものであったこと(定勤社員が、前記定勤社員・臨時社員専属ライン、単純反復作業と複雑判断作業とで編成されているラインのいずれで稼働していたにせよ、その二つのラインのいずれの操業を欠いても商品製造の目的が達せられないから、右目的達成のために定勤社員の従事する作業が必要不可欠であったといわなければならない。)を考えると、当事者双方の雇用契約の継続への期待は、決して小さなものではなかったということができる。
 これらの事情にかんがみると、定勤社員契約において合意された契約更新の定めは、被申請人が経営内容の悪化により操業停止に追いやられるなど従業員数の削減を行うほかないやむを得ない特段の事情のない限り、契約期間満了後も継続して定勤社員として雇用することを予定しているものというべきであり、定勤社員を雇止めするについては、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があることは否定できないものの、解雇に関する法理が類推され、右の趣旨の特段の事情のある場合に限って雇止めができるものというべきである。したがって、右のような特段の事情が存在しないのにかかわらず、被申請人が定勤社員の雇止めをすることは、定勤社員の信頼に著しく反することであって許されないというべきであり、本件雇止めが右特段の事情がないのに行われたとすれば、申請人らは、仮の地位を定める仮処分命令により、被申請人との間に労働契約が締結されたのと同様の権利関係を仮に設定することを求めることができるというべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 これらの事情を総合して考慮すれば、各事業部における操業が、規模を縮小するものがあるとしてもなお継続する状況の下において、被申請人が、定勤社員だけについて、そのほぼ全員を対象として同時かつ一挙に定勤社員契約を解消させるような本件雇止めを行わなければならないほどの真にやむを得ない理由があったとはいいがたい。そうすると、被申請人としては当時まず当勤社員の中で希望退職者を募り、または各定勤社員の個別的事情を考慮するなどして、雇止めの対象を定勤社員の一部にとどめる措置を講じるのが相当であったといえるところ、本件においては、申請人らをこのように限定された態様での雇止めの対象とすることを相当とするような事情があったかどうかがなお問題として残されることとなる。しかし、疎明を総合しても、申請人らと本件雇止めの対象となった他の定勤社員との比較において、申請人らをとくに雇止めの対象とすることを相当とするような事情を認めることはできないから、少なくとも現段階においてその判断をすることはできない。
 したがって、本件雇止めは、十分な回避努力を欠く点において合理的理由のない労使間の信義則に反する措置というべきであって、雇止めを正当化しうる前記趣旨での特段の事情があったとは認めがたいから、後記保全の必要性が肯定される限り、仮処分命令により、申請人らと被申請人との間に雇用関係があることを仮に定め、かつ、同日以降の未払賃金相当額の金員を仮に支払うよう命ずるのが相当であるというべきである。