全 情 報

ID番号 05881
事件名 労働保険審査請求不服申立事件
いわゆる事件名 所沢労働基準監督署長(アイサワ工業日高作業所)事件
争点
事案概要  障害補償給付と時効の関係につき、労災保険法四二条は補償給付請求権の消滅時効に関する規定であり、業務上の騒音性難聴に基づく補償給付請求権の消滅時効は、症状固定の時から進行するとされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法15条
労働者災害補償保険法42条
民法166条1項
民法724条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等
裁判年月日 1992年1月24日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 22 
裁判結果 請求棄却(控訴)
出典 タイムズ789号160頁/労働判例617号86頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕
 2 被告の主張1(労災保険法四二条の法的性格)について
 被告は、労災保険法四二条は、労災補償保険給付請求権の除斥期間による消滅について規定したものであると主張するので、この点について検討する。同条は、文言上明確に「時効」と規定しており、また同法三五条二項は、保険給付決定に対する「審査請求又は再審査請求は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。」と規定し、障害保険給付を受ける権利について、時効の中断に関する規定を置いているのである。このような明文に反して労災保険法四二条所定の期間を除斥期間と解する根拠はなく、右規定は、労災障害保険給付請求権の時効消滅について規定したものと解すべきである。
 3 請求原因3(二)及び被告の主張2(消滅時効の起算点)について
 (一) 右2のとおり、労災保険法四二条は労災障害保険給付請求権の消滅時効についての規定であり、右の時効期間の起算点について明文の規定がない以上、起算点は、民法一六六条の一般原則に基づき、権利を行使することを得る時点である。この「権利を行使することを得る時」とは、権利の行使について法律上の障碍がなくなった時と解すべきであるから、当該権利者が事実上権利の存在することを知らず、権利を行使することができなくとも時効期間は進行する。
 ところで、労災障害保険給付請求権は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合に発生し、これを行使することが可能となる。そして、右の「なおったとき」とは、当該傷病の症状が安定ないし固定し、医学的にさらに治療を継続しても症状の改善が期待し得ない状態になった時、すなわち、症状固定時と解するのが相当である。