全 情 報

ID番号 05908
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 千代田化工建設事件
争点
事案概要  「会社が経営規模の縮少を余儀なくされ、または会社の合併等により他の職種への配置転換その他の方法によっても雇用を続行することができないとき」には従業員を解雇する旨の就業規則に基づきなされた解雇につき、会社が職種転換による雇用の続行を拒む理由には正当な理由がなく、解雇権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1992年3月26日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 222 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報1423号130頁/労経速報1474号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 一 先にみてきたとおり、川崎工場は、昭和五〇年代以降、長期にわたって業績不振が続き、被告会社において設備投資その他の施策を講じたものの、その成果が現れず、被告会社全体としても、第五八期(昭和六〇年一〇月から同六一年九月まで)以降、一五〇億円を超える営業損失を計上し、第五九期には経常収支も赤字となっていたが、被告会社が第一次非常時対策として、川崎工場を子会社化して技能系従業員を中心に同工場の従業員の大部分を子会社に移籍し、次いで、第二次非常時対策として、残りの技能系従業員の大半を子会社に移籍したことにより、被告会社は、本件解雇時までに、赤字の大きな原因となっていた人件費を削減することができ、また、経営の重点を施設建設等の業務からより付加価値の高いエンジニアリング・コンストラクターとしての業務に移すという目的もおおむね達成することができていた。しかし、少人数であっても、原告のような技能系従業員を抱えておくことは、右各対策を実施してきた趣旨にそぐわないことであるから、被告会社がこうした従業員を移籍等によって削減しようとしたこと自体は相応の必要性、合理性を有するものということができる。
 しかしながら、その人員削減が個別の従業員の承諾のもとに行われる移籍にとどまらず、整理解雇という方法で行われるとなると、従業員は、その責任のない事由により意に反して職を失い、生活上重大な不利益を受けることになるので、信義則上、それが可能であるというためには、被告会社にとって人員削減の必要があるというだけでなく、その必要性の程度、解雇回避の可能性、解雇によって受ける従業員の不利益等を比較考量して相当と認められるものであることが必要であり、整理解雇の要件を定めた就業規則の右規定を解釈適用する場合においても、こうした点を考慮すべきものと解される。〔中略〕
 三 以上によれば、本件解雇は、解雇事由がないのにあるとしてなされたものであるから、解雇権を濫用するものとして無効であり、原告は、現に被告会社との労働契約に基づく被用者の地位を有し、かつ、その主張の賃金請求権を取得したというべきである。