全 情 報

ID番号 05909
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 東京教育図書事件
争点
事案概要  経営不振を理由とする整理解雇につき、解雇回避のための措置が尽くされていないこと、整理解雇対象の人選が合理的でないとして無効とされた事例。
 会社の業務を妨げたこと、会社の名誉信用を傷つけたこと、会社の秘密を漏らしたことを理由とする懲戒解雇につき、これらを理由として何らかの懲戒処分を行なうことは一概に違法、不当とはいえないが、会社が一貫して原告に嫌がらせをしたり、整理解雇をしていることに鑑み、懲戒権の濫用として無効とされた事例。
 整理解雇、懲戒解雇を無効とし、これらが不法行為に該当するとして慰謝料の支払いが命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
民法710条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 1992年3月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 16369 
裁判結果 一部棄却,一部却下(控訴)
出典 時報1421号129頁/労働判例605号37頁/労経速報1462号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
〔解雇-解雇と争訟〕
 以上のとおり、本件整理解雇については、人員整理の必要性の有無についてはにわかに判断できないものの、被告会社において整理解雇を回避するための努力を尽くしたとも、解雇対象の人選に合理性があったともいえず、もっぱら人員整理に託けて原告らを排除する意図によるものであって、解雇権を濫用したものといわざるを得ないから、無効であるというべきである。〔中略〕
 右認定事実によれば、原告X1は、被告会社の経営を悪化させた者をことさらに擁護する言動を被告会社に隠れて教室指導者に対して行っており、また、原告両名は、被告会社の組合に対する姿勢を批判するに当たり、その範囲、限度を超えた内容、表現を含んだ文書を教室指導者に配付したものである。このような原告らの言動が被告会社の経営に対して与える影響は無視しえず、ことにこのような文書を送付された教室指導者の中には被告会社との契約継続をためらう者が出てくることも予想されることを考えると、原告らの言動が「業務の遂行を妨げたとき」、「会社の名誉信用を傷つけ、または会社の利益に明らかに反する行為が認められたとき」に該当するとして、被告会社が原告らに対し何らかの懲戒処分を行うことは、一概に違法、不当とはいえない。しかし、右1の事実については具体的にどの程度被告会社に不利益な言動があったかは判然としないこと、右2の事実中、Aら三名の教室指導者との契約解除に関する「イヤガラセ」との表現については、《証拠略》によれば、右Aら三名は右契約解除の無効を主張し、被告会社を債務者として地位保全仮処分を申請し、これを認容する決定を得ていることが認められるので、右表現が不当なものであったかどうかは、にわかに判断できないこと、さらに、前記一で認定したとおり、被告会社は一貫して原告ら分会員に嫌がらせを続けていたこと、しかも、原告らの言動は、被告会社が本件整理解雇に託けて原告らを不当に排除しようとし、原告らの従業員としての地位を否定している状況下で行われたことを考えると、本件懲戒解雇は解雇権を濫用したもので無効といわざるを得ない。〔中略〕
 四 不法行為について
 1 原告X2関係
 被告会社が、原告X2に対する嫌がらせとして、昭和六二年一〇月一六日、教材作成業務を取り上げ、同月二〇日以後、主として教室指導者募集のちらし配付、ダイレクトメールの宛名書き・発送の仕事を命じ、同月二〇日、教室指導者を対象とする学習会の業務を取り上げ、同年一二月二五日、業務命令(その実質は被告会社の原告X2に対する嫌がらせにほかならない。)に服さなかったことについて始末書を提出するように命じ、これに応じなかったことを理由に五日間の出勤停止処分を行い、昭和六三年一月八日から二月八日にかけて嫌がらせの業務命令や質問をし、同年一月一二日中央教室の担当から外したこと、原告X2を含む分会員らに対する嫌がらせとして電話の取次ぎをしなかったこと、原告X2を被告会社から排除するため本件整理解雇を行ったことは前記一で認定したとおりである。被告会社の以上の行為は原告X2の名誉及び利益に対する侵害であり、不法行為を構成する。
 2 原告X1関係
 被告会社が、原告X1に対する嫌がらせとして、昭和六二年五月二二日、担当していた業務を取り上げ、同年七月二一日過去のそれほど重大とも思われない就労義務違反を口実に同月三一日まで自宅で反省・自己変革するよう命じ、同月二二日、原告X1が出社して就労を申し入れたところ、これを拒否して自己変革建白書を提出するよう命じ、自己変革しなければ解雇する旨述べ、右期間が経過した後も元の仕事に戻さなかったこと、原告X1を含む分会員らに対する嫌がらせとして電話の取次ぎをしなかったこと、原告X1を被告会社から排除するため本件整理解雇を行ったことは前記一で認定したとおりである。被告会社の以上の行為は原告X1の名誉及び利益に対する侵害であり、不法行為を構成する。
 3 原告らが、被告会社の右不法行為によって被った精神的損害に対する慰謝料としては、それぞれ金五〇万円が相当である。