全 情 報

ID番号 05933
事件名 雇用契約上の地位確認等請求事件
いわゆる事件名 JR東日本(千葉鉄道管理局)事件
争点
事案概要  日本国有鉄道改革法、旅客鉄道株式会社および日本貨物鉄道株式会社に関する法律によって設立された承継法人である東日本旅客鉄道株式会社に対し、元国鉄職員がなした雇用契約上の地位確認請求につき、右請求が棄却された事例。
参照法条 日本国有鉄道改革法23条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 新会社設立
裁判年月日 1992年6月25日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 412 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集43巻2・3号597頁/タイムズ791号90頁/労経速報1467号13頁/労働判例622号35頁
審級関係
評釈論文 谷本義高・平成4年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1024〕215~217頁1993年6月
判決理由 〔労働契約-労働契約の承継-営業譲渡〕
〔労働契約-労働契約の承継-新会社設立〕
 1 被告の原告ら・国鉄間の労働契約の当然の承継について
 (一) 国鉄と被告との実質的同一性について
 原告らは、国鉄と各新会社は実質的かつ本質的部分において連続性・同一性を有しており、企業としての実体には何らの変更がなく、国鉄再生に必要な限度での経営形態の変更があったに過ぎない旨主張する。そして、原告らは、国鉄と被告が別個・独立の法主体であることを前提として、両者が実質的同一性を有する証左として幾つかの事実を挙示するが、右の事実はいずれも経済的ないし社会的事実かせいぜい法律的な現象に過ぎないものであるところ、原告らと独立の法主体である国鉄との間の労働契約関係が国鉄とは別個の・独立の法主体である被告に当然に承継されたかどうかは優れて法律上の問題であるから、両者が実質的同一性を有するといい得るためには法律上又はその解釈上の論拠(有効な論拠になり得るか否か別として、例えば商法上の組織変更(同法一一三条、一六三条、一六二条二項、有限会社法六四条、六七条、六八条)の類推適用など)を掲示しなければならず、単なる経済的ないし社会的事実あるいは法律的現象を列挙してそれらの実質的同一性を指摘するだけでは足りないというべく、したがって、原告らの右主張はそれ自体失当のきらいがある。しかし、原告らの右主張の主旨が、両者が実質的同一性を有する法律上又はその解釈上の論拠があるといおうとするものであることは明らかであるから、それについて法律上又はその解釈上の論拠があるか否かを検討しておく必要があるであろう。
 国鉄改革関連法令とりわけその中核となる改革法の条文を見ると、随所に「事業(ないし業務)の引継ぎ(引き継がせるなど)」(同法六条、八条二項、九ないし一一条、一九条一ないし四項、二一条など)、「(資産、)債務(並びにその他の権利及び義務又は財産)の承継(承継させる)など」(同法一三条、一九条一ないし四項、二〇条一、二項、二二条など)の文言があり、さらには「承継法人」(同法一一条二項、一三条一項、一五条、一九条一ないし四項、二〇条一項、二一条、二二条、二三条一ないし三、五ないし七項など)という表現がある。そして、被告も右の承継法人の一つである(同法六条二項二号、一一条二項)から、一応被告は、法令上国鉄からその行っている事業又は業務(以下「「事業等」という。)のうち主として東北及び関東地方に分割された旅客鉄道事業を中心とする事業等をそのまま承継しているということができる。しかしながら、同法をしさいに検討すると、同法は、引継ぎあるいは承継の用語を資産、債務並びにその他の権利及び義務又は財産その他のいうなれば物的な関係で使用しており、労働契約関係を含むいうなれば人的関係では使用しておらず、また承継法人の用語も便宜的な略称として使用しているに過ぎないのであって、物的及び人的関係を含む包括的な事業ないし業務をそのまま承継させるときは、「移行」という用語を使用している(同法一五条、一八条など)のである。すなわち、同法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破たんし、効率的な経営体制を確立するための国鉄の経営形態の抜本的な改革つまり国鉄改革に関する基本的な事項を定めた(一条)が、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現するために(同法一条参照)、国鉄の事業等を六旅客鉄道会社、一鉄道貨物会社等の複数の新事業体に分割することにした上(同法六ないし八条、一一条)、国鉄の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、運輸大臣に対し、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定めることを命じている(同法一九条一項)。そして、その基本計画の中には【1】「承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲に関する基本的な事項」並びに【2】「承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務に関する基本的な事項」とともに、【3】国鉄「の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数」を含ませている(同条二項)が、運輸大臣が基本計画を定めたときに国鉄に対して作成すべきことを指示しなければならない引継ぎ及び承継に関する実施計画中には【3】の事項を含ませず(同条三、四項、同法二一条、二二条参照)、それと切り離して定め、一定の要件の下に新規の「採用」の方式によることにしている(同法二三条)のである。その上、国に国鉄が承継法人に事業等を引き継いだ時点で国鉄そのものを事業団に移行させるものとすることを明示した(同法一五条)。要するに、同法は、国鉄の職員を、一定の要件を充足した者について新事業体に採用させ、その他の者は事業団に残留させる二つの方式により処遇しようとしたと解すべきであって(同法二三条六、七項がこのように解することの妨げにならないことは、後に判示するとおりである。)、こと人的関係では承継の法理を採らなかったことは明らかであるというべきである。
 そうとすると、原告の右の当然の承継の主張は、理由がないといわなければならない。
 (二) 営業譲渡に基づく労働関係の移転について
 原告らは、国鉄の分割・民営化の本質は、企業主体の変更ないしは営業譲渡に外ならないから、労働関係は、新会社に承継されるものであると主張する。
 しかしながら、たとえ国鉄から新事業体への国鉄の事業等の移転等の実態に営業譲渡などの要素があるとしても、国鉄から新事業体への国鉄の事業等の種類及び範囲とそれを構成する資産、債務並びにその他の権利及び義務の移転の内容ないし態様、方法ないし手続及び効果や職員の処遇の内容ないし態様、方法ないし手続及び効果については改革法をはじめとする国鉄改革関連法令が詳細に規定するところであって、それが法定されている以上、それに対して企業主体の変更ないし営業譲渡などの一般的な法理論が適用される余地はないといわなければならない。なお、原告らは、改革法が承継法人の職員について退職金の不支給、在職期間の通算を規定していることをもってそのようなことは営業譲渡以外に考えられない旨主張し、被告ら新会社に採用された旧国鉄職員の退職金の取扱いについて国鉄時代の在職期間が通算されることとされていることについては、当事者間に争いがない。しかしながら、原告らの右主張は、国鉄から新事業体への国鉄の事業等の移転等が営業譲渡の要素を持つことを指摘する以上の意味はなく、改革法が承継法人の職員について退職金の不支給、在職期間の通算を規定していることをもって国鉄から新事業体への国鉄の事業等の移転等に対して国鉄改革関連法令の適用が排除され営業譲渡の法理論が適用されるべきことの論拠にはなり得ないというべきである。なぜならば、営業譲渡の法理論は一般的な法解釈論に過ぎず、法規を改廃する効力はないからである。
 したがって、原告の営業譲渡等に基づく労働関係の移転の主張は、失当であるといわざるを得ない。