全 情 報

ID番号 05939
事件名 労働災害補償給付不支給決定等取消請求控訴事件
いわゆる事件名 王子労働基準監督署長(昭和重機)事件
争点
事案概要  金属部品の穴あけ作業中に重さ二キログラムのボール盤のハンドルが落下し、頭部を強打したことによりくも膜下出血を起こした場合につき、業務起因性が認められた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法13条
労働者災害補償保険法14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1992年7月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (行コ) 177 
裁判結果 破棄自判(確定)
出典 タイムズ799号182頁/労働判例613号11頁/労経速報1483号19頁
審級関係 一審/05733/東京地/平 2.12.13/昭和62年(行ウ)28号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 本件事故により控訴人が頭部に受けた衝撃が相当強度のものであったと認められることは前記のとおりである。前記のように、脳動脈瘤破裂による特発性くも膜下出血は特別な外的ストレスの関与なしにも起こり得るものではあるが、頭部強打という強い外的ストレスはその発症を促す強い要因となり得るものといってよい。本件事故による頭部強打は日常生活の中で通常見られる他の外的ストレスとは比較にならないほど強度のものであり、これによる強い身体的負荷は一時的に急激な血圧上昇を生じさせることによって脳動脈瘤破裂の原因となり得るものというべきであり、このことに加え、控訴人について本件事故後から前記のような身体的変調が続いており、それらが脳動脈瘤破裂による特発性くも膜下出血の症状経過と一致すること並びにA医師及びB医師の前記意見を総合すると、本件事故の際の頭部強打により控訴人に急激な一過性の血圧上昇が生じ、そのために中大脳動脈瘤に小破綻が生じ軽微な出血が発生する初回発作があり、その後、同月二一日用便を済ませた直後、控訴人が転倒した際、再発作があって右脳動脈瘤が再度破裂し、出血したものと認めるのが相当である。〈書証番号略〉は右認定の妨げとなるものではない。
 被控訴人は、控訴人の本件疾病は右三月二一日の用便直後に脳動脈瘤が自然破裂して発症したものと主張する。しかし、前記のように脳動脈瘤破裂による特発性くも膜下出血は特別の外的ストレスの関与なしにも発症し、用便等も発症の誘因となり得るものではあるが、控訴人の場合、本件事故による右後頭部の打撃は日常生活において通常見られる用便等の他の外的ストレスとは比較にならないほど強度のものであったことが認められ、その直後から前記のようにくも膜下出血の疾状経過と一致する身体的変調が発生し、右三月二一日の用便直後の重篤な症状の出現に至っているのであるから、右三月二一日の用便ないしその直後の転倒によって本件疾病が憎悪したことは認められるものの、本件事故と本件疾病との因果関係を否定することは合理的でないといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから、控訴人の本件疾病は本件事故に起因するものというべきである。