全 情 報

ID番号 06045
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 愛知医科大学事件
争点
事案概要  六五歳で定年退職となった大学教授が七〇歳までの勤務延長の合意があった等として地位保全の仮処分を申し立てた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法93条
体系項目 退職 / 定年・再雇用
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
裁判年月日 1992年11月10日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 平成4年 (ヨ) 304 
裁判結果 却下
出典 労経速報1483号27頁/労働判例627号60頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕
 労働基準法その他の法令に従って管理運営されるべき債務者大学にとって、就業規則の制定が必要不可欠なものであること、そして大学の就業規則中に職員の定年退職に関する規定をおき、教授その他職員等の人事を画一的、円滑、効率的に管理する必要のあることは容易に認められるけれども、定年についての格別の定めなく雇用された債権者にとって、債務者により本件就業規則により新たに定年に関する規定が設けられたことは、債権者の雇用条件を不利益に変更するものであることは明らかである。しかし、本件就業規則により大学の教授の定年を六五歳と定めたことは、当時の殆どの一般企業における定年が五五歳ないし六〇歳と定められ、国公立大学教授の定年が六二歳と定められ、全国の殆どの私立医科大学における教授の定年が六五歳と定められていた(〈証拠略〉)などの定年制の実施状況に照らして、極めて常識的かつ妥当なものと認められること、制定時すでに定年を超える者、あるいは定年に近い者に対しては一定の救済措置を規定するなどの配慮を加えるなど、全体としてその合理性を十分首肯し得るものであることが一応認められる。
 したがって、本件就業規則の定年に関する規定は、債権者においてこれを容認するか否かにかかわらず、債権者に対してもその効力を有するものというべきである。
 なお、その後改正され、実際に債権者に適用されることとなった本件定年規定は、前叙のとおり、教授、助教授に関する限り、本件就業規則中の定年に関する定めを殆どそのまま受け継いだものであって、本件就業規則を不利益に変更するものでないことが明らかであるから、これが債権者に適用されることについて問題はない。
〔退職-定年・再雇用〕
 右就任当時六〇歳を超える者の定年延長措置は、いずれも本件就業規則中の経過措置の規定によりなされたものであって、格別の取り扱いというわけではなく、しかも大学設置認可条件教授であっても、就任当時四一歳ないし五〇歳と債権者同様の若年齢の者については、大学付属病院院長の任期との関係で一年定年を延長した者一名を除き、いずれも六五歳をもって定年退職の取り扱いがなされていること、また、債権者が指摘する中途採用教授は、いずれも、債務者大学設立後数年を経ない草創期に採用されたものであり、採用時の年齢も六〇歳を超え六五歳の定年に近いか、すでに定年に達している者であることからすれば、定年を超えて採用することを雇用条件とした可能性も十分考えられるところであるが、更にこれらの者が定年に達した後は、債務者は本件就業規則二三条四項を適用して再雇用しており、こうした取り扱いは債務者大学の運営を円滑に行うためには必要な措置であって、その合理性も十分認められるものであること、その後昭和五六年、教授会の審議を経て、前叙のとおり本件就業規則が改正され、本件定年規定が設けられる過程において、右中途採用者の取り扱いについても考慮の対象とされたが、これらの者は定年規程六条但し書き及び同規程附則2に根拠をおくものであるとして、疑義等の出されたことはないこと、右の者のうちA学長については、同規程六条但し書きにより更に定年延長の措置が採られていること、その後昭和六一年五月二八日、右規程六条が一部改正され、理事長が右特例措置を採るについて学長の推薦を要することになったが、定年を超えた教授の採用については、いずれも本件定年規定に則って運用されていることに変わりはないこと、以上の事実が一応認められる。
 これらの事実に照らすと、債務者が本件就業規則及び本件定年規定を恣意的に適用してきたとか、債権者について差別的に適用するものであるといった事実は認められず、他に本件定年規定を債権者に適用することが信義誠実の原則に反することを窺わせる疎明資料もない。