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ID番号 06049
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 三井石炭鉱業事件
争点
事案概要  石炭の需要減少等経営環境悪化を理由とする炭坑における三一名の労働者に対する整理解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1992年11月25日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 1737 
平成1年 (ワ) 60 
裁判結果 棄却
出典 労働判例621号33頁/労経速報1490号3頁
審級関係
評釈論文 小川美和子・ジュリスト1066号245~247頁1995年5月1日
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件のように、一般職社員就業規則一四条四号(事業を休廃止又は縮小したとき)及び七号(前各号のほか、やむを得ない事由があると認めたとき)を適用して有効に整理解雇をするためには、【1】労働者の解雇が事業の経営上やむを得ないものであるかどうか、【2】整理解雇の基準が合理的であるかどうか、及び【3】その解雇手続が社会通念上相当と認められるかどうかという観点から総合的に判断することを要すると解すべきである。けだし、整理解雇は、労働者側には通常なんら帰責事由がなく、専ら使用者側の経営の都合で労働者を解雇するものであるから、右のように解するのが公平かつ合理的であるからである。
 2 そこで、まず、【1】の点につき考察するに、この点は、人員削減の方法以外の合理化施策を十分に講じたうえでなお事業の経営上人員削減がやむを得ないものと認められるかという観点のみならず、希望退職の募集などの人員削減の手段が講じられたにもかかわらず所期の成果が得られずやむを得ず労働者を解雇する必要がある場合であるかという観点からも検討することを要するものというべきところ、本件においては、前記認定のとおり、被告は我が国の石炭産業界の構造的不況の下で、特に昭和六一年度以降種々の合理化施策を講じたが、なお合理化としては不十分であるうえ、三池鉱業所について合理化によって生じた一般職社員の余剰人員が六一四名に達したため、そのうちの六一〇名を削減することとし、まず、希望退職を募集したところ、二九四名(保安発破係員四名を除く。)が応募したにとどまったことから、本件整理解雇に及んだものであって、右事実関係に照らせば、【1】の点につき積極に解するのが相当である。
 3 次に、【2】の点につき考察するに、「昭和六三年一二月三一日までに満五三歳以上に達する者」を解雇の対象とすることの合理性については、高齢者は若年者に比べて再就職が困難である等の事情はあるものの、被告における定年は五五歳であって、勤務を続けるとしても最大限約二年であるうえ、退職金の支給や福利厚生関係その他の点で前記認定のとおりの配慮が払われていることを考慮すると、右解雇基準は、恣意の入らない客観的基準として、合理性を有するものというべきである。
 4 【3】の点については、使用者が労働者ないしその属する労働組合との間で誠実に交渉したものといえるかどうかが特に問題である。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告の経営状態に関しては、我が国の石炭産業が国の保護政策に大きく依存する体質を有していたところ、コストの高い国内炭が安価な輸入炭に対し国際競争力を喪失したことが明らかとなった本件整理解雇当時、従来の国の石炭産業保護政策が大幅に縮小され、また、硫黄分の多い三池炭の需要の拡大が困難である等の理由から、被告が早急に生産量を減少させつつ生産性を高める必要に迫られていたこと、数次の合理化にもかかわらず被告の収支は改善されず、被告が将来的にも独立した企業として存立していくためには生産コスト引き下げに向けた合理化の必要性が認められたこと、被告の繰越損失のうち筑豊地区への鉱害補償債務二〇億円については三井鉱山から被告が分離独立する際右債務を上回る価値を有する石炭部門の資産等とともにこれを引き受けたものであって被告が右債務を負担するのは理由があり、また、有明海海苔漁場への海底陥没補償二〇億円及び四国沖へのボタ捨て費用五億円は被告が事業を営むうえでの必要経費というべきであり、これらは三井鉱山が負担すべきものとはいえないこと、被告所有の不動産等は被告の借入金を担保するための鉱業財団抵当の目的となっており被告が自由に処分することは困難であったこと、被告がその所有にかかる土地の処分をしたとしても、それによって被告が将来的にも十分存立していくために必要な生産コストを引き下げに向けた合理化が回避できたとはいえないことが認められる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 この点に関しては、年齢による整理解雇基準の設定は客観的基準であり主観的要素が入り込まないこと、高齢者から解雇していく場合は、その再就職が困難である等の問題点も多いことは確かに否定できないが、退職金等によりその経済的打撃を調整できること、炭鉱経営者が高齢者の体力面や機械化への適応性に不安をもつのも一概に理由がないとはいえないことが認められる。