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ID番号 06078
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 東京貯金事務センター事件
争点
事案概要  東京貯金事務センターに勤務していた職員が、遅刻と組合事務所入室による欠務を理由として賃金減額、訓告の処分を受けたことに対して、遅刻は通勤電車の遅延によるもので特別休暇または年休として処理されるべきであったとして争った事例。
参照法条 労働基準法39条1項
労働基準法39条4項
国家公務員法98条1項
国家公務員法101条1項
体系項目 年休(民事) / 年休の振替
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1993年3月4日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 162 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集44巻2号271頁/タイムズ827号130頁/労経速報1489号3頁/労働判例626号56頁
審級関係
評釈論文 藤本茂・平成5年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1046〕226~227頁1994年6月
判決理由 〔年休-年休の振替〕
 労働基準法に定める年次有給休暇の制度は、労働者において同法三九条一項ないし三項に基づく具体的な時季指定をすることによって、当該労働者の当該日についての労働義務を法律上当然に免れさせるものであるが、他面、使用者に時季変更権が認められていることに照らすと、右時季指定は、使用者において事前に時季変更の要否を検討し当該労働者にその告知をするに足りる相当の時間を置いてなされなければならないと解される。したがって、年次有給休暇の事後請求という概念は本来成立たない性質のものである。もっとも、労働者が急病その他の緊急の事態のため予め時季指定をすることができずに欠務した場合、使用者において、当該労働者の求めに応じて、欠勤と扱わず、年次有給休暇と振り替える処理が実際上行われることがある。この場合の年次有給休暇の扱いを求める申し出が年次有給休暇の事後請求と呼ばれることがあるが、右申し出に応じた処理をするか否かは、使用者の裁量に委ねられているものというべきであり、この申し出によって当然に休暇取得の法的効力を生ずるものと解すべき法的根拠はない。したがって、年次有給休暇のいわゆる事後請求が認められなかったからといって、一般には、使用者の処理が違法なものとなることはなく、ただ、当該申し出の事情を勘案すれば年次有給休暇として処理することが当然に妥当であると認められるのに、使用者がもっぱら他の事情に基づいてその処理を拒否するなど裁量権を濫用したと認められる特段の事情が認められる場合に限り違法となるものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 1 前記就業規則一一六条は、「職員は、過失があった場合には、郵政部内職員訓告規程(昭和二五年七月二五日公達第八三号)の定めるところにより、訓告されることがあるものとする。」と定めており、郵政部内職員訓告規程(〈書証番号略〉)一項は、「部下職員に過失があった場合、その軽重を審査し軽微であって、懲戒処分を行う範囲内のものでないと認めるときは訓告する。」と規定し、右規程の運用通達である「郵政部内職員訓告規程について」(昭和二五年七月二五日郵人第二五八号〔〈書証番号略〉〕)記一の1は、「この規程にいう『過失』は職員の職務上の過失事故は勿論のこと、職員の部内外のすべての非違行為を包含するものであること。」としている。
 2 東京貯金事務センター所長は、右規定に基づいて本件訓告をしたものであるが、その趣旨は、原告に対する指揮監督権限を有する同所長が原告の義務違反行為を指摘してその注意を喚起し、原告の職務遂行の改善、向上に資せしめるために将来を戒めるところにあるものと解される。
 しかして、原告の前記第二の一2の(一)ないし(八)の各遅刻については、国家公務員法九八条一項及び一〇一条一項に違反するもので、かつ、原告の過失によるものというべきであり、また、同(九)の組合事務所に入ったことによる一九分間欠務については、これを正当化する特段の事情は何も認められないことは前記のとおりである。そして、前示のような遅刻の各事情に加えて、原告は、平素から、勤務時間内に昼食をとったり、離席したり、新聞を読むなどの行動が多く、職務先年義務に違反する行為については欠務処理をする旨A課長からとくに注意されていたばかりか、前記運用の実施された翌日から遅刻し、上司からの再三の指導に従わず、規律に従う意思を示さなかったものであって(〈書証番号略〉、証人B、証人A)、以上のような実情を前提として、原告に対する指揮監督権者である東京貯金事務センター所長が、原告の義務違反行為を指摘してその注意を喚起し、原告の職務遂行の改善、向上に資せしめるために将来を戒めたことを違法とすることはできない。