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ID番号 06087
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 アイ・シー・エスほか事件
争点
事案概要  退職後も機密保持義務を負うことを契約書によってきめられている者が、退職後、会社から開示を受けて本件ノウハウを有する者を唆して第三者に公開させることも右義務違反にあたるとされた事例。
 機密保持義務を負う者を雇用し、これを漏洩させたことが企業の自由活動の範囲を逸脱しており不法行為にあたるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 企業秘密保持
裁判年月日 1987年3月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 11489 
裁判結果 一部認容
出典 時報1265号103頁/タイムズ650号203頁/金融商事792号30頁
審級関係
評釈論文 円谷峻・判例タイムズ671号60~63頁1988年10月1日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-企業秘密保持〕
 (ロ) 「被告Y1は昭和五四年一二月ころから、被告Y2会社の取締役として、本件製造実施契約及びその下請契約に基づき本件ロボット製造ノウハウを有していたA機械に対し、本件製造実施契約が昭和五五年六月に期間満了により終了した後は本件ロボットを被告Y2会社に販売されたいとの申し入れをし、以後被告Y1が被告Y2会社の責任者となってA機械との間で交渉が行われ、昭和五五年六月二八日同被告とA機械との間に『精密鋳造法に係る鋳型造型用ロボットの販売に関する契約』が締結されたこと……A機械は右契約に基づき昭和五五年一一月ころ被告Y2会社に対してテイクアップシステムの図面を交付するとともに、昭和五五年一一月二六日から同五七年六月三〇日までの間に被告Y2会社から本件ロボットの注文を受け、昭和五六年三月から同五七年一〇月までの間に合計四台を同被告に対して製造納入し、これに添えて本件ロボットの取扱説明書を交付したことが認められ……(る)。
 右に認定したところによれば、被告Y1は原告に対し本件ノウハウにつき機密保持義務を負っている立場にありながら、原告がB社から開示を受けた本件ロボット製造ノウハウを有するA機械に対して積極的に働き掛けて被告Y2会社との間に本件ロボットの販売契約を締結させ、これに基づきA機械から同被告に右機密保持義務の対象事項に属するテイクアップシステムの図面及び本件ロボットの取扱説明書(これらは本件誓約書の機密事項である『設計図面』及び『精密鋳造品の生産に関する措置』に関する情報に当たると考えられる。)を交付させたのであり、このように本件誓約書により機密保持義務を負っている者が、原告から開示を受けて本件ノウハウを有する者を唆してこれを第三者に公開公表せしめることも同誓約書にいう機密の漏洩に当たるものというべきであるから、被告Y1には機密保持義務違反の債務不履行が成立するものというべきである。」
 三 「被告Y2会社の代表取締役C及び取締役被告Y1の各行為は、同被告が原告に対し、本件ノウハウに関し機密保持義務を負っていることを知りながら、機密漏洩行為をさせた点において、また製造したロボットをあたかも自社開発し、原告がその製造権及び販売権を喪失したかの如く虚偽の宣伝をして原告が現に販売交渉をしていたユーザーに販売した点において、企業間の自由競争の限界を逸脱し違法性を帯び、不法行為を構成するというべきであり、被告Y2会社はC及び被告Y1の行為について、民法四四条に基づき不法行為責任を負うというべきである。」