全 情 報

ID番号 06152
事件名 療養補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 横浜南労基署長事件
争点
事案概要  車持込運転手が労災保険法上の労働者にあたらないとした労基署長の処分が取り消された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働者災害補償保険法3条
労働者災害補償保険法7条
体系項目 労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 労働者
裁判年月日 1993年6月17日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (行ウ) 14 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ820号247頁/労経速報1508号27頁/労働判例643号71頁
審級関係
評釈論文 佐藤進・ジュリスト1085号107~109頁1996年3月1日/西村健一郎・民商法雑誌110巻6号1110~1117頁1994年9月
判決理由 〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-労働者〕
 四 右認定の事実によれば、原告は、A会社との契約が、運送請負としてなされていた関係で、形式的には、A会社の従業員として扱われず、A会社の就業規則や賃金、退職に関する規定の適用もなく、報酬も出来高に応じた額で支払われるものとされており、本件事故以前においては、自らもA会社の従業員ではないと認識していたものと認められる。しかしながら、原告が実際に行っていた業務の実態を子細に検討すると、A会社は、原告を含む車持ち込み運転手を営業組織の中に組み入れ、これにより、事業の遂行上不可欠な運送力を確保しようとしていたことは明らかであり、契約上、休日、始業時刻、終業時刻等を明示に定めていないとはいえ、毎日の始業と終了の時刻は、A会社の運送係から指示される運送先に納品すべき時刻、運送先までの距離、翌日の運送の指示が行われる時刻、その後に行われる荷積みに要する時間等によって自ずから定まり、そこに車持ち込み運転手の裁量の入る余地はほとんどなかったばかりか、自己の都合で休む場合には事前にその旨を届け出るよう指示されていたものであって、時間的な拘束の程度は、一般の従業員とさほど異ならないものであった。納品時刻のほか、運送先、運送品の数量、運送距離等の運送業務の内容も、運送係の指示によって一方的にきまり、車持ち込み運転手がこれを選択する余地はなかった。さらに、車持ち込み運転手は、A会社以外の事業所の運送業務をすることも、第三者に運送業務を代替させることも明示には禁止されていなかったとはいえ、いずれもトラック一台を所有しているだけで、それ以外に事務所を設けたり、従業員を雇ったりしているものではないから、現実には、一人でA会社の運送業務を専属的に行うほかなく、A会社以外の事業所と運送契約をしたり、第三者に運送業務を代替させることは不可能であった。報酬についてみても、A会社が一方的に設定した報酬基準である運賃表に拘束され、その運賃表の設定に車持ち込み運転手の意向を反映させることは事実上あり得ないことであった。その運賃表は、運送品の多少よりも、トラックの積載可能量を基準にし、運送距離に応じて報酬を定めるものであって、多分に運送に要する時間すなわち運転手の労働時間の要素を加味したものとみることができる。その運賃表により受ける毎月の報酬額は、一般の自家用貨物自動車の運転手の平均賃金と比較して高額のようにみえるが、トラック協会の定める運賃表によるよりも一割五分も低いものであること、従業員である一般の運転手については、退職金や福利厚生事業等による経済的利益もあるのに車持ち込み運転手にはそれがないこと、車持ち込み運転手の就労時間が比較的長時間であることなどを考慮すると、その報酬額が一般の運転手の賃金と比較して、労働者性を否定するほどに特に高額であるともいえない。
 こうしたA会社と原告との間における業務遂行上の指揮監督関係、時間的及び場所的拘束性の程度、労務提供の代替性や業務用機材の負担の実情、報酬の性格等を総合的に考慮すると、A会社の原告に対する業務遂行に関する指示や時間的場所的拘束は、請負契約に基づく発注者の請負人に対する指図やその契約の性質から生ずる拘束の範疇を超えるものであって、これらの事情の下で行われる原告の業務の実態は、A会社の使用従属関係の下における労務の提供と評価すべきものであり、その報酬は労務の対価の要素を多分に含むものであるから、労災保険法を適用するについては、原告を同法にいう労働者と認めるのが相当である。