全 情 報

ID番号 06184
事件名 地位保全仮処分申立事件
いわゆる事件名 共栄火災損害調査会社事件
争点
事案概要  保険会社の出資により設立された損害調査会社のアジヤスターが秋田市から東京事務所への配転を命じられ、右配転命令は人事権の濫用で無効であるとして東京事務所で勤務する義務のないことを仮に定める仮処分を申し立てた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1993年5月17日
裁判所名 秋田地
裁判形式 決定
事件番号 平成4年 (ヨ) 50 
裁判結果 却下(抗告)
出典 タイムズ837号262頁/労経速報1529号22頁/労働判例652号72頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件配転命令に至る以前に債権者の調査業務について共栄火災に寄せられていた契約者ないし代理店からの苦情の内容、その結果債権者に対する調査業務の発注が困難なものとなっていたこと、さらには、職場において債権者と他の職員との間で協調関係を欠いていたことなどの事情からすると、本件配転命令の当時、債権者がこれ以上秋田において就労することは債務者会社の営業面及び人事管理面の双方から見て不適切な事態に立ち至っていたものということができるから、債務者会社が債権者の職業場所について従来の東北地区から切り離すべく本件配転命令をするに至ったことについては一応業務上の必要性があったというべきである。〔中略〕
 以上の事実により判断するに、まず、債権者が本件配転命令に従う場合、一方で債権者の妻が仕事を辞めるか(債権者に同伴する場合)、あるいは、債権者の世帯が分離される結果、家族関係の切断及び支出の増加等を余儀なくされる(単身赴任の場合)のであり、本件配転命令がいずれにしても債権者の生活に対して一定の負担をもたらすことは否定できない。しかしながら、債務者会社が本件配転命令に際して債権者に提供した住居は債権者の家族が生活するに足りるものであり、その住居につき債権者が負担する費用は月額六〇〇〇円であること等の事情に鑑みると、本件配転命令により債権者が受ける不利益は前記債務者会社の業務上の必要性と対比して著しいものとはいえない。〔中略〕
 本件配転命令は、債務者会社の従業員、特に、債権者のようなアジャスターと呼ばれる職種の従業員の人事異動としてはやや特殊なものであるというほかはない。
 しかし、前記一において認定したとおり、本件配転命令は債権者に従来の担当地域及び職場環境から離脱させるところに主眼点があるところ、前記のとおり山形県内の代理店からも苦情が出ていることなどからみて、債権者を秋田県内に隣接する地域に置くことも困難であったと認められ、本件配転命令による配属先である東京が配属先として不適切とはいい難い。従って、右のような他の人事異動のケースとの比較により、本件配転命令が、債権者に対し他の債務者会社の従業員と比較して不均衡な不利益を与えるものとはいえない。
 四 以上によれば、本件配転命令は債務者会社の業務上の必要性に基づいてなされたものであり、かつ、債権者に対する不利益は過重なものとはいえないから、人事権の濫用ということはできず、有効であり、債権者の本件申立てには理由がない。