全 情 報

ID番号 06196
事件名 労働契約上の地位確認等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 正和機器産業事件
争点
事案概要  産業機械、機器等の製造、販売を行う会社が経営再建のために二工場のうち一工場を閉鎖して他方に統合することとし、閉鎖する工場に勤務する労働者について転勤希望者および希望退職者の募集を行い、右いずれの募集にも応じなかった従業員を解雇したのに対して、一部の従業員が右解雇を争って地位保全の仮処分を申し立てた事例。
参照法条 労働基準法20条1項
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 1993年7月20日
裁判所名 宇都宮地
裁判形式 決定
事件番号 平成5年 (ヨ) 38 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例642号52頁/労経速報1525号3頁
審級関係
評釈論文 田中徹歩、太田うるおう・季刊労働者の権利205号76~79頁1994年7月
判決理由 〔解雇-労基法20条違反の解雇の効力〕
 使用者が労働基準法二〇条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで解雇の通知をした場合には、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の期間を経過するか、通知後に同条所定の予告手当を支払ったときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生じると解するのが相当である(最高裁昭和三〇年(オ)第九三号同三五年三月一一日第二小法廷判決・民集一四巻三号四〇三頁)。
 右事実によれば、債務者は、平成五年二月二日に被解雇債権者らに対して一〇日後の解雇を通知したものの、その後自ら申請した地方労働委員会による斡旋が行われるのに合わせて自主的に解雇日を延伸していたのであり、右二月二日に予告した同月一二日付での解雇に固執していたものとは認められないから、当初の通知から三〇日を経過した同年三月五日付でなされた解雇には同条違反はない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 右欠損の原因が主に売上高の減少とこれに伴う固定費の負担率の増加にあり、産業界全体の景気の動向から今後もしばらくは売上高の増加が期待できない状況であったことからすれば、このままの状況で放置する場合には欠損がさらに拡大するとともに、信用状態の低下にしたがって資金調達も債務者にとってより不利な条件で行わざるを得なくなり、ひいては会社経営に深刻な影響を及ぼすことになるものというべきである。したがって、債務者がその将来の経営危機を見越して合理化を図ろうとすることは経営者としての当然の措置として是認されるというべきである。また、経営合理化を図る場合に、具体的に考えられるいくつかの方策のうち、いずれを採用するかは経営者の裁量に委ねられており、それが必然的に労働者に対して解雇等大きな影響を与えるものであっても合理的な必要性があれば許されると解される。
 本件において、将来的な固定費による収益の圧迫を取り除き、工場の稼働率を高めることによって受注の減少に対応していくために鹿沼工場の閉鎖を決めた判断は、債務者の今後の経営を維持する上で先手を打った方策である面は否定できないものの、有効な人員合理化策として合理的な必要性があったというべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 転勤についての被解雇債権者らの個々の同意・不同意の意向と鹿沼工場の閉鎖についての反対運動とは別の事柄であり、債権者らは鹿沼工場が存続することを前提に大宮工場への転勤に消極的であったにすぎず、債権者らが鹿沼工場閉鎖に反対であるからといって、被解雇債権者ら各自が最終的に転勤を希望しないことにはならず、被解雇債権者らの中には、鹿沼工場閉鎖反対運動が効を奏しない場合には次善の策として大宮工場への転勤を希望する者が現れる可能性も否定できない。しかも、債務者が希望退職者の募集と大宮工場への転勤の二つの方法により鹿沼工場の閉鎖を実現しようとした当初の経営合理化の計画は、鹿沼工場閉鎖及び一定の人員の削減以外の点についてはあくまでも見込みを踏まえたうえでの予定にすぎず、債権者組合との交渉中に、転勤を希望した者がわずかであって、かつ希望退職者の数が当初の予想を超えたような場合には、そのときどきの状況に応じて修正すべき余地を残した流動的なものである。したがって、債務者は、鹿沼工場の閉鎖を断行した段階で、更に従業員の処遇について検討し、雇用関係が残っていた被解雇債権者らに対し、希望退職するか否か、転勤に応ずる意向があるか否かなどの最終的意向をあらためて確認したうえで、大宮工場への転勤を希望する者が現れた場合には、転勤希望者及び希望退職者の最終的な人数や転勤の可否等を考慮して、最終的に、必要な人員を踏まえて、希望退職を希望しない者、転勤の意向のない者及び転勤の意向があっても転勤させるべきでない者についての人事的措置を決するべきである。
 このような状況に応じた検討を怠ってなされた本件解雇は、被解雇債権者らの予期に反する結果をもたらし、場合によっては鹿沼工場閉鎖に反対した被解雇債権者らを、希望退職または転勤の意向を積極的に示さなかったことに乗じて一律に解雇したとの誹りを受けかねない方法によるものであって、債務者の主張するように解雇手続を取らざるを得なかったとは認められず、債務者において解雇権を濫用したものと解すべきである。