全 情 報

ID番号 06212
事件名 地位保全並びに賃金仮払い仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 延岡学園事件
争点
事案概要  私立高校における常勤講師の雇止め問題に関して同校教員組合が県に対する行政指導の要請、父母に対する同趣旨の文書の郵送、登校時の生徒に対するビラの配布等を行ったのに対して、学校が、右行為は同校の勤務規定に反するとして組合委員長を懲戒解雇したため、組合委員長が右懲戒解雇の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1993年10月20日
裁判所名 福岡高宮崎支
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 233 
裁判結果 却下
出典 労働判例650号46頁
審級関係 一審/04950/宮崎地延岡支/平 1.11.27/昭和63年(ヨ)37号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 右組合の見解が、不実の事実に基づくなど、第三者や控訴人の名誉、信用を棄損する場合には、違法、不当の評価を受けることは当然であって、それが労働組合の活動であることを理由に正当化されるものではない。ことに、本件のような行政指導申入れの場合、私立学校法四条二号、四号により所轄庁である県知事は、学園及び控訴人に対し、同法五条等に定める一定の事項の認可権限や監督権限を有するほか、同法五九条、私立学校振興助成法に基づき、補助金の交付、減額、不支給の権限等を有している(弁論の全趣旨により控訴人も学園経営の経常費の相当部分を公費助成金に依存していることが一応認められる。)のであるから、組合が、たとえ組合の見解としてであっても、不実の事実を摘示することは、控訴人の名誉、対外的信用を損なうおそれがあることはもとより、所轄庁に対し、その行政指導のための適切な判断を誤らせ、控訴人に不当な不利益を及ぼすおそれがあるものとして、違法性の程度が強いものとなるといわなければならない。
 そして、本件においては、前認定のとおり、行政指導申入れ書に摘示している事実は、ほとんどが組合として容易に事実調査、確認しうるものであるのに、これを怠り、風聞や組合の一方的判断、見解に基づいて控訴人を非難するものであり、(中略)は、誇張的表現や軽率さなど不当な点を含むが、表現の問題あるいは見解の相違として、ある程度違法性の点において斟酌しうるものがあるといえるものの、(中略)の項目は、著しく誇大に表現したり、あるいは、不当に誇張、歪曲した事実、さらには虚偽の事実を摘示するなど、控訴人の名誉、信用を著しく棄損する不当なものであって、実際にも、前認定のとおり、(中略)の項目により、宮崎県の控訴人に対する不信を惹起し、聞き取り調査を受けるなどし、(中略)の点により、父兄に対し学園の水道設備について不安感を抱かせ、また、学園の生徒募集にも少なからず混乱を招いたことが明らかで、違法性の程度も強いといわなければならない。
 さらに加えて、前記のとおり、本件行政指導申入れは、学園の施設が充実し、組合において過去に求めていた要求が徐々に入れられ、昭和六一年、六二年には要求として特に上げられていなかったのに、常勤講師問題に関する闘争を有利に導くため、ことさら控訴人に対応するいとまを与えないでなしたという経緯や、また、組合は、本件行政指導申入れ書と同内容の文書を、学園生徒の父兄のほか、その他の労働団体等無関係な団体にまで配付し、学園の実情を知らない者をして、公的機関に申し入れをしたという一事から、記載された事実が真実と信じさせる効果を持たさせようとした意図が明らかであることなど、その意図、目的の不当性は高いものであって、これによってもたらされる控訴人の名誉、信用に対する棄損の程度も大きいものということができる。
 (三) 以上によると、本件行政指導申入れによる同申入れ文書を、宮崎県、学園生徒の父兄等に配付した被控訴人の行為は、組合活動として正当なものということはできず、勤務規定三二条四号の禁止事項である「職務上知り得た秘密を漏らし、又は学校の不利益となるおそれのある事実を告げること」に違反し、勤務規定四九条四号、五号の懲戒事由に該当すると認められる。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 本件リボン闘争は、勤務規定三〇条二号に違反するものであり、かつ、組合活動としても違法であるといわざるを得ず、勤務規定四九条二号、四号及び五号所定の懲戒事由に該当するというべきである。
 (二) しかしながら、本件リボンの形状及び記載文言は無用な煽情的・刺激的効果を与えないようにかなり配慮されたものであると認められること、その着用時間は一時間半程度の短時間に過ぎず、しかも、その間に行われたのは職員朝礼、ホームルーム、大掃除であって、始業式開始前には外されていたのであるから、通常の授業のある日に相当時間リボン着用がなされた場合と比べると、職場の秩序規律及び生徒の心情に対する影響の度合いはかなり低かったといえることを考慮すると、本件リボン闘争の違法性の程度はあまり高くないものということができる。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 本件行政指導申入れに基づく同申入れ書の提出及び配付行為、本件生徒配付文書の配付行為、本件リボン闘争、本件抗議文書の配付行為は、いずれも違法であって、組合活動として正当なものということはできず、したがって、前示のとおり勤務規定所定の懲戒事由に該当するものというべきところ、これらを理由としてなされた本件懲戒解雇の有効性について検討するに、懲戒処分のうち解雇処分は、被懲戒者の地位を失わせるもっとも重大な処分であるから、懲戒権者において、右処分を選択するに当たっては、各行為の態様のみならず、その原因、動機、結果及び対外的に与えた影響のほか、被懲戒者の態度、身上、過去の処分歴、選択する処分が与える影響を総合的に考慮してなされるべきであり、また、当該行為と処分は、社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないと解される。
 そこで、本件をみるに、前記各行為、ことに本件行政指導申入れ書は、内容の不当性から悪質であり、控訴人の名誉、対外的信用を棄損し、その与えた影響は極めて大きいものであるし、本件生徒配付文書の配付行為は、生徒を紛争に巻き込むもので、教師として著しく配慮に欠けた行為と評することができる。そして、被控訴人は、組合の委員長として右の各行為を主導したもので、右各行為は被控訴人の個人的指導性、指導力に負うところが大きく、また、例えば、事後的に本件行政指導申入れ書の誤りを指摘されてもこれを訂正するどころか、かえって反駁し、さらに関係各団体に配付するなど、反省の態度がないことも軽く見ることのできない点といえる。さらに、本件各行為に至る原因として、A、Bら常勤講師の問題があり、その当否は見解の分かれるところであり、したがって、組合がこれを取り上げ、その廃止を求めるため適法な社会運動を展開することは何ら当不当を問うべきことではなく、被控訴人及び組合が本件各行為をなすにいたった動機としては斟酌しうる点がないではないが、被控訴人及び組合は、右問題を有利に解決するための闘争手段として、多方面からの控訴人に対する社会的批判を醸成するため、ことさら、控訴人に対応するいとまを与えないまま本件行政指導申入れをなし、さらに、生徒への文書配付行為に及んだという事情も一応認められるのである。
 そうすると、右の点だけで、被控訴人の責任は極めて重いものがあるということができ、これに、違法性の程度が弱いとはいえ本件リボン闘争、本件抗議文書配付行為を勘案すると、控訴人が、被控訴人を懲戒解雇処分に付したことは、その裁量を逸脱した無効なものということはできない。
 被控訴人は、本件懲戒解雇は、控訴人の反組合的動機を本質的かつ不可欠の原因とするものであるから、不当労働行為として無効である旨主張するが、前記認定の事実に照らし、これを認めることができない。また、被控訴人は、本件懲戒解雇は、解雇権の濫用である旨主張するが、右説示のとおり、本件各行為の違法性に照らし、解雇権の濫用に当たるとは認められない。