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ID番号 06230
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東京電力事件
争点
事案概要  共産党員であることを理由とする賃金の不利益待遇につき、同期入社同学歴の標準的な従業員の平均賃金との間に生じた賃金差別額に相当する損害賠償責任が認められた事例。
参照法条 労働基準法3条
民法90条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1993年12月22日
裁判所名 甲府地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 289 
裁判結果 一部棄却(控訴)
出典 時報1491号3頁/タイムズ849号87頁/労働判例651号33頁
審級関係
評釈論文 西谷敏・労働法律旬報1348号6~25頁1994年11月25日/藤内和公・民商法雑誌111巻6号985~995頁1995年3月/野村晃・法律時報67巻2号90~93頁1995年2月
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 四 給与関係の処遇格差が差別意思により生じたものか否かについて
 1 主張・立証責任について
 (一) 給与関係の処遇差別の個別的特定及びその立証の要否
 まず、被告は、各従業員に対する業務実績ないし職務遂行能力に対する毎年の個々の評定を基礎とする給与関係の諸処遇決定につき裁量権を有するから、当該従業員の一定時点での給与関係の処遇はそれ以前の個々の評定ないし裁量に基づく処遇決定の集積の反映であって、原告らが被告の右諸処遇決定において何らかの加害行為があったと主張するのであれば、いかなる個々の処遇決定がいつ、誰の判断により、どのように被告の裁量権を逸脱するから加害行為といえるのかを主張において特定し、かつ、個々の加害行為につき立証すべきであると主張する。しかし、原告らが給与関係の処遇において同期入社同学歴の標準者と比較して不利益な取扱いを受けないとの利益を侵害されたと認定するためには差別意思を持った人事考課ないし査定が行われ、その結果として同期入社同学歴の標準者との間に給与関係の処遇格差が生じたとの事実が主張されれば足りるのであって、具体的には、前記三3のとおり被告が原告らに対し昭和二六年以降現在に至るまで一貫して強度の嫌悪意思を有し少なくとも昭和三六年以降は人事管理面及び労働組合対策面において共産党員等を非共産党従業員と組織的に差別しその存在を否定する意思を有してきたことが認められるので、右期間中に被告の差別意思に基づく少なくとも一回以上の人事考課ないし査定により原告らと標準者との間に給与関係の処遇格差が生じたことを主張し、かつ、右事実を認定できる程度の立証があればそれで足りると解すべきである(なお、標準者の概念は、これを厳密に特定することは不可能であり、年功序列性及び被告従業員の服務状況一般並びに経験則に照らし中程度の職務遂行能力を有しかつ年功序列性に沿った昇進、昇格を可能とする通常の業務実績を修めていた者を観念すべきであり、具体的には、原告らが前記第二の一3(二)のとおり措定した「あるべき給与」を受けるのを相当とする者と解すれば足りる。)。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 まず、原告らは、給与関係の処遇上の不合理な差別を受けたことによって現実に受けた著しく低い給与と各原告と同期入社同学歴の標準者に対して支払われるべき「あるべき給与」との差額を逸失し、右差額給与相当額の財産的損害を受けた旨主張するところ、右主張が認められるためには、あるべき給与の算定基礎の合理性ないし正確性(原告らと同期入社同学歴の標準者が「あるべき給与」を支給されるべきであったこと)、原告らがそれぞれの標準者と同等の業務実績を修め又は同等の職務遂行能力を有していたことがそれぞれ立証される必要があると解される。
 ところで、前者の認定は前記二1の限度でこれを肯認することができる。また、後者の認定は、原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8及び亡X9(以下「原告X1ら」という。)については前記四1及び2の(二)ないし(一〇)のとおりこれをそれぞれ肯認することができる。したがって、原告X1らについては、前示二1の限度で差額給与相当額の損害を受けたものと認めることができるから、原告X1らの請求は右の限度(請求額がこれを下回る場合については請求額の限度)で理由がある。