全 情 報

ID番号 06241
事件名 雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 福岡県労働福祉会館事件
争点
事案概要  労働福祉会館が極度の経営不振に陥り、抜本的な経営改善の方策として事務全般を外部委託することになり、会館職員を整理解雇したのに対して、解雇された職員が組合活動を理由とする不当労働行為であり、解雇権の濫用に当たるとして雇用関係の確認等を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1994年2月9日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 2801 
裁判結果 棄却
出典 労働判例649号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 (一) 人員整理の必要性について
 前記認定のとおり、被告は、A会館を開館した当時から、当初の見積りを超える七億円の負債を負っていた上、事業収入が伸び悩み、昭和五四年度には経常利益を生じたが、翌五五年度には早くも赤字に転じ、以後毎年八六〇万円ないし三八〇〇万円の赤字を計上し、途中業績を回復するために委託部門を直営化したものの、かえって赤字を増大させることになり、昭和六一年度及び同六二年度には年間一億円前後に達する赤字を計上し、昭和六二年度における繰越損失は三億〇四五八万円にも達し、翌六三年度は不動産の一部を売却してようやく年度利益を上げるという状況であった。また、被告は、多大な借入金の支払利息の返済等に追われ、右返済のために借入れをし、更に借入金を増大させるという悪循環を繰り返していた。右のような経営状況に至った原因については、原告らも主張するように、被告の経営判断に相当程度甘い面があったことは否定できないものの、右恒常的な赤字経営の状況にあって、そのまま推移すればやがて被告の事業経営が破綻することは必至であったと解され、被告の事業経営のそれ以上の悪化を防ぐために、人員整理を含む抜本的な経営合理化を実施する差し迫った必要が存在していたものと言うことができる。
 そして、右赤字解消の手段としてまず考えられる収入増加に関しては、公認会計士による財務分析において、駐車場収入、テナント収入及び維持管理費収入等に関して種々問題点が指摘されているが、これらは、労働福祉事業団体としての被告の性格、入居関係団体に対する配慮及びテナント業者に対する過度の負担増等からその実現にはかなりの時間を要し、直ちに大幅な収入増加を図ることは見込めない状況にあったこと、他方、経費の中に占める人件費の額が年間四三〇〇万円にものぼり、前記公認会計士の財務分析においても人件費の抜本的な見直しが強調されていたこと、被告が公的融資を受けることについても、融資先からその前提として人件費削減を含む経営合理化の必要を指摘されていたこと、被告は、本件解雇前に維持管理費配分率の変更、料金値上げ、退職者不補充等一定の経営努力をし、また事業団体から補助金の補助を受けたり、資産売却を試みるなどして赤字の解消を図り、漫然と右赤字状況を放置していたわけではないことからすると、右経営合理化の方策の一つとして、A会館の業務を全て外部委託とし人件費の削減を図ったことは被告の経営判断上まことにやむを得ない措置と解することができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 (二) 解雇回避努力について
 前記のとおり、本件では原告らを含む職員全員の人員整理の必要性があったと認められるから、当該要件に関しては、被告が右人員整理の手段として解雇以外の方法を採ることにつき努力したかどうかを検討すれば足りるものと解される。
 そこで検討するに、前記認定のとおり、本件解雇に先立つ平成元年七月七日、被告は原告らに対して、職員全員を同年八月末日をもって退職とし、退職金は正規の一二〇パーセントを支給する旨提案したこと、再就職先については、被告は、同月二四日に開催された団体交渉の席上、原告X1に対してB株式会社、原告X2及び原告X3に対してC株式会社をそれぞれ紹介したこと、ところが原告らは、継続雇用を主張して再就職の意思がないことを被告に表明したこと、右あっせんに際して、被告は、賃金のほか業種及び勤務先等原告らの労働条件がなるべく下がらないよう配慮したこと、その後も被告は原告に対して、再就職先のあっせんを続けたが、原告らは、被告が全員退職の方針を撤回しない限り右あっせんには応じられないとしてこれを拒絶したことからすると、被告は、解雇回避のために最大限の努力をしたものと認めるのが相当である。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 (三) 解雇基準の合理性について
 本件解雇は、被告の職員全員を対象とする人員整理の一環としてなされたものであるから、解雇基準の設定及びその適用に関して、被告に恣意的要素が介入する余地はなく、当該要件の存否は、本件においては問題にならない。
 (四) 解雇手続の相当性について
 被告は、組合との間で、合計一三回にわたって団体交渉を続け、人員整理について組合と協議してきたものの、全員退職の方針を巡ってその必要性がない旨主張する組合と対立し、結局右交渉は決裂したものであって、右交渉回数、交渉の席上被告から組合に対して被告の経営状況や整理解雇に至った経緯、経営改善案等に関して説明がなされ、退職の勧試や再就職のあっせん等もなされていること、被告が右交渉を拒否した事実はなく、また右交渉において被告が不誠実な対応をしたという事実も認められないこと等の事情に鑑みると、被告は組合との間で本件解雇に関して十分に協議を尽くしたものと解するのが相当である。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 (五) 以上のとおり、本件解雇は、整理解雇の要件を満たしているものと言うべく、被告の就業規則一四条一項一号に規定する「やむを得ない業務の都合による場合」及び同項六号所定の「事業の継続が不可能となり、事業の縮小・廃止をするとき」に該当するものと認めるのが相当である。
 そして、右認定判断に照らせば、本件解雇が権利の濫用にあたると言うことは到底できない。