全 情 報

ID番号 06272
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 鴻池運送事件
争点
事案概要  トラック運転者たる労働者が、業務命令違反、勤務態度不良等を理由に解雇され、解雇の真の理由は賃金改訂に用意に応じなかったことによるものであるとして、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1994年4月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成5年 (ヨ) 3123 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例656号35頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 債務者は、債権者らが、債務者の業務上の指示に従わないこと、勤務態度の悪いことなどを本件解雇の理由として主張するが、債務者は債権者らと本件解雇直前まで賃金改訂交渉をしていて、債権者らがそれを受諾すれば当然雇用関係を継続する意思であったことが窺えるうえ、債務者が離職票に具体的な事情として、賃金条件が折り合わないためと記載していること、解雇を告げた際には勤務態度などについて触れていないこと、解雇理由とする事実が債権者らの賃金体系の最低保障制度の廃止を提案した以後の出来事を中心としていることなどからすると、債務者は、債権者らが賃金制度の改訂に容易に応じようとしなかったことを主たる理由として本件解雇をなしたものといわざるを得ない。
 しかし、就業規則や賃金規則の全くない債務者と債権者らの間において賃金制度の改訂に応じないことが直ちに解雇理由となり得ないことは明らかであり、債権者らが債務者から諾否を迫られて最終的には債務者の改訂案を受諾する意向を示したのになされた本件解雇の効力は、この点において問題があるといえる。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 債権者Aの解雇理由について認定した事実のうち、(一)は、労働意欲に欠けることを窺わせるとしても、従業員が仲間うちで語り合った言葉に過ぎず、それだけで解雇理由とはならないし、(二)ないし(四)は、いずれもその指示が簡単に撤回されており、債務者がそれらについて債権者Aに明確に注意をしておらず、業務に具体的な支障が生じなかったことは債務者も自認しており、業務命令違反とはいい難く、(五)は、債務者提案の賃金改訂について、フリーの運転手として債権者らと同じ反対の立場を取っていたBが、これを受諾したと聞かされ、これに対し怒りを禁じ得なかったことから発せられたもので、現実に暴力を振るうことはなかったのであるから、これも解雇理由とすることはできない。
 債権者Cの解雇理由について認定した事実のうち、(一)及び(二)は、いずれもその指示が簡単に撤回されており、債務者がそれらについて債権者Cに明確に注意しておらず、業務に生じた具体的な支障は明らかでなく、業務命令違反とはいえず、(三)は、債務者Cが倉庫の合鍵を持っていたことにも一応の理由があることを示すものである。
 2 以上の認定及び判断を総合すると、債務者が小規模の企業であり、債権者らの言動に従業員との調和を計るうえで問題があるなどの事情を考慮しても、本件解雇はいずれも解雇権の濫用にあたり無効であるといわざるを得ない。