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ID番号 06279
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 金沢セクシャル・ハラスメント事件
争点
事案概要  対価型セクシャル・ハラスメントをうけ、これを拒否したため解雇されたことを理由とする損害賠償請求につき、行為者と被告会社とが連帯して八〇万円の支払が命ぜられた事例。
参照法条 民法44条1項
民法709条
民法710条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1994年5月26日
裁判所名 金沢地輪島支
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 3 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例650号8頁
審級関係
評釈論文 奥村回・労働法律旬報1344号49~52頁1994年9月25日/山崎文夫・労働法律旬報1344号42~48頁1994年9月25日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 一 前記第二、六で認定の被告Yの個々の言動のなかには、第二、七前段の原告の言動に照らすと、世間話や冗談、飲酒の上での猥談にすぎず、許される範囲内のものもあり、すべてが違法となるものではないが、被告Yは、原告の体に触ったり、胸に触ろうとしたり、抱きついたりしており、右行為は、原告に不快感を与え、また一般の女性であれば不愉快に感じる行為であって、原告の仕事が家政婦的仕事であり、被告Yの自宅で被告Yと一対一の仕事であることを考えると、被告Yの右行為は、その労働環境を悪化させるものでもあり、セクシャルハラスメントとして違法というべきである。
 二 被告Yの原告に対する四月以降の態度は前記第二で認定のとおりである。
 1 原告は被告Yの行為につき、性的な要求を拒否したため、嫌がらせをしたと主張する。
 前記認定のとおり、被告Yは、原告に辞めてほしいと思い、原告の作った昼食を自宅で食べず、その結果原告に対し昼食について弁当持参の指示をだすことになり、また金銭の支払いを原告にさせず事務所で行い、これらはいずれもその必要のないものであり、更に、ボーナスを支給しなかったものであり、いずれも嫌がらせにすぎないと認められる。そして、被告会社代表者兼被告Yは、当時原告に辞めてほしい(第二、一〇)と考えた理由として、原告の整理整頓の拙さや食事の不味さ等をあげ(〈証拠略〉)、原告の仕事ぶり及び性格は前記第二、九のとおりであるものの、その程度は解雇を考えるほどではないと認められること、また、前記嫌がらせは、前記性的行為の中止と時期を同じくして始まっていることを考え合わせると、前記嫌がらせと被告Yの前記性的行為との間に因果関係がないとはいえない。
 そうすると、被告Yの右嫌がらせは、前記性的行為に対する原告の対応を一因として、原告に不利益を課しており、前記性的行為と一体として、セクシャルハラスメントと認めることができ、違法というべきである。
 2 しかし、被告Yの個々の行為のうち、被告会社が業務命令により、草むしりを命じ、原告の仕事をみるため、原告に作業日報を記載させたり、原告に電話をしたりし、また原告の車の駐車場所について注意をすることは(車庫の前に駐車するのを注意するのは自然である)必要であり、またこれらは原告に原因があるものであって、被告Yの右行為を直ちに嫌がらせとして違法と認めることはできない。更に被告Yの誰から給料をもらっとる等の発言(第二、一四)も、原告の発言に対抗する発言であり、これが違法というものではない。
 更に、原告に対する解雇は、原告の性格及び仕事ぶりは前記第二、九、一四記載のとおりであり、また、七月以降の両者の関係は通常とはいいがたく、作業日報の記載(第二、一三)、駐車場所の注意及びそれに対する原告の行動(第二、一五)、その後の原告の言動(第二、一七)にみられる原告の指示命令違反、反抗的態度は著しく、被告Yの前記嫌がらせに対する抗議を考慮してもなお、限度をこえており、原告の解雇はやむをえないものであると認められる。
 3 被告Yが八月七日に原告に加えた暴力について、違法性を認めることができることはいうまでもなく、これにより被告Yは原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。しかし、右は原告の挑発に対してなされたものであり、特に前記性的行為と因果関係のあるものとは認められない。なお、右暴行につき、原告の挑発があったからといって被告Yの暴行の違法性や責任が阻却されるものではない。
 三 被告会社の責任
 被告Yは被告会社の代表者であり、原告の仕事は代表者である被告Yの自宅の家政婦的仕事であり、被告Yの自宅での言動は、被告Y個人としての言動であるとともに、家政婦的仕事をしている原告に対する被告会社代表者としての職務上の言動という面があり、原告に対する被告Yの前記一、二で違法と判断された行動、暴行については被告会社も民法四四条一項(商法二六一条三項、七八条二項による準用)により、被告Yと連帯して損害賠償責任を負うものである。