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ID番号 06285
事件名 解雇無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 西武バス事件
争点
事案概要  同僚が運転する路線バスの最終便に乗るため、同僚にバスをゆっくり運転するように依頼し、最大四〇秒の遅れを出したことを理由とする懲戒解雇につき、社会通念上相当性を欠き、解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1994年6月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ネ) 4611 
裁判結果 変更(上告)
出典 タイムズ855号210頁/労働判例654号25頁/労経速報1536号21頁
審級関係 一審/06052/東京地/平 4.12. 1/平成1年(ワ)16558号
評釈論文 萩澤清彦・ジュリスト1072号188~190頁1995年7月15日/野々上友之・平成6年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊882〕344~345頁1995年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 (1) 控訴人は、翌日早朝勤務のために上石神井営業所に宿泊する必要があったとはいえ、控訴人が上石神井営業所に行く方法としては、タクシーなどもあり、徒歩でも三〇分程度の距離であって、本件バスが唯一頼るべき交通手段というわけではなかった(甲八三号証、控訴人本人尋問の結果)。
 控訴人は、翌日の早朝出勤を意識しながら深夜まで友人と飲酒し、たまたま出会った本件バスの同僚運転士に対し、酔余の気安さからとは思われるものの、飲み仲間に別れを告げに行くため「二分間」の待機を求めるという、一般の乗客でさえはばかられる行為に及んだのであって、結果的にもバスの運行を遅らせたものであり、一般乗客への迷惑を顧慮しない不謹慎な行為であった。
 しかも控訴人は当時制服姿のままであり、その行為は、外見上も、公共交通機関を私物化したと見られてもやむを得ないものであって、乗客の苦情を惹起したのはもっともなことであり、十分問責されるべき非違行為であったといわざるを得ない。
 (2) しかしながら、控訴人は、酔余とはいえ、翌日の早朝勤務に備えて上石神井営業所に宿泊するために最終バスに飛び乗ったというものであって、その動機においては同情すべきところがあり、同僚運転士が控訴人の求めに応じてロータリーをゆっくり巡行してくれた間に乗車が可能となったものであって、乗車地点も、最終バスであれば一般乗客でも運転士の裁量で乗車させることがありうる範囲内であったということができる。
 控訴人の行為により本件バスが遅延した時間は、前項認定のとおり、四〇秒を超えない程度であり、懲戒処分決定書(甲二号証)記載の「二分程」には至っていなかった。しかも、ロータリー内で本件バスが緩慢な走行をしたこと及び停車して控訴人を乗車させたことによって付近の交通に危険を生じさせたとの事情もうかがわれず、また本件行為による遅延のために乗客が他の交通機関への乗り換えなどに支障を生じたというような影響もみられなかった。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 以上前項及び本項で認定した控訴人の行為の動機、態様、結果、従前の勤務成績、他の懲戒処分選択の可能性、過去の処分例との均衡、解雇という重い措置が控訴人に与える影響等を総合考慮すると、被控訴人が控訴人に対してした本件解雇は、退職手当金の支給を伴う普通解雇としてされていること及び労働協約に基づく苦情処理の手続において控訴人の苦情処理の申立てが容認されなかったことをしん酌してもなお、その原因となった行為と比較して、社会通念上の相当性を欠き、合理的な理由がないと判断せざるを得ないものであって、解雇権の濫用として無効である。