全 情 報

ID番号 06297
事件名 出向命令差止仮処分申立事件
いわゆる事件名 東海旅客鉄道事件
争点
事案概要  出向命令につき、持病を有する者(二名)については出向先の労働による肉体的負担が大きく、退職に追い込むことになるかもしれず人事権の濫用に当たり無効とされたが、他の一名についてはその心配がないとして有効とされた事例。
 労働者が出向につき包括的に合意したのは、採用時の就業規則・出向規程による出向であって、復職を前提とするものであり、定年退職時まで復職を認めないものまでをも含む趣旨のものであったとはいえない。
参照法条 労働基準法2章
民法625条1項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界
裁判年月日 1994年8月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 1545 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1542号11頁/労働判例658号56頁
審級関係
評釈論文 土田道夫・ジュリスト1096号137~140頁1996年9月1日/本橋一樹・差止めと執行停止の理論と実務〔判例タイムズ臨時増刊1062〕260~264頁2001年8月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 疎明資料及び審尋の全趣旨によると、債権者らが包括的に同意したのは、採用時の就業規則・出向規程による出向であって、復職を前提とするものであり、本件出向命令のように、定年退職時まで復職を認めないというようなものまでをも含む趣旨であったとはいい難い。債権者らが採用された当時、債務者が本件出向命令の根拠として強調する定年協定等はなく、債権者らにおいて、定年に絡み、原則的に出向させられることがあるとは考えていなかったはずである。むしろ、就業規則では六〇歳をもって定年と定められ、同就業規則附則により当面は五五歳をもって定年とするとされていたのであるから、原則出向による定年延長ではなく、なんの留保もない原則(六〇歳定年)の実施を期待していたとみるべきであろう。この間の経緯は、定年協定締結の際の労使間のやり取り等(〈証拠略〉)に照らしても明らかである。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕
 債権者らの出向先の作業は、腰痛等の持病を持つ者にとっては、退職をも考えざるを得ないものであって、事実上出向者を退職に追込む余地のあるものであるところ、疎明資料及び審尋の全趣旨によると、債権者AとBは、腰痛の持病(前者は、変形性脊椎症・腰椎椎間板症、後者は、椎間板ヘルニア)を持ち、債権者新谷においてはコルセットを常用せざるを得ない状況にあるものであり、また、債権者金谷においては、入院を余儀なくされた病歴があって、完治しておらず、増悪する危険性も否定できない状況にあるものであり、いずれも出向を命じられれば退職に追込まれるおそれがあるものと一応認められる(〈証拠略〉)。債権者AやBは、健康状態に問題がないかの如き言動を時にはしているが、健康不良を理由に不利な扱いをされるのを慮ったものとみるべきであろう。本件における債権者ら本人やその妻の訴えには切実なものがある。現に、債権者新谷は、コルセットを常用し、保険請求の関係で、債務者に対し三回にわたって腰痛の持病がある旨の診断書を提出しているのであって、毎年全従業員に対しなされている調査表(〈証拠略〉)による一般的な調査ではなく、出向先の選別を意識した健康状態の調査がなされておれば、別異の言動がなされたはずである。
 そうすると、債権者A及びBに関する本件出向命令は、前記要件を欠くから、人事権の濫用として無効というべきである。