全 情 報

ID番号 06310
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 富士ブロイラー事件
争点
事案概要  労働安全衛生法に関連する法令上の第一種圧力容器の爆発事故に際しての事業主による国家賠償請求につき、法令上の諸規則により事業主の利益は事実上の利益に過ぎず、審査手続において国の過誤があったとしても、事業者との関係では違法性はないとされた事例。
参照法条 労働安全衛生法37条
労働安全衛生法38条
ボイラー及び圧力容器安全規則49条
国家賠償法1条1項
体系項目 労働安全衛生法 / 労働安全衛生法違反と損害賠償
裁判年月日 1983年4月7日
裁判所名 静岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 403 
裁判結果 棄却
出典 訟務月報29巻11号2031頁
審級関係 控訴審/06314/東京高/昭60. 7.17/昭和58年(ネ)1369号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-労働安全衛生法違反と損害賠償〕
 一 本件事故の発生について
 原告が昭和五〇年五月から富士宮工場内に新設した化成工場において第一種圧力容器である本件乾燥機によりブロイラーの食肉加工に伴い発生する残滓を処理し飼料化する事業を行なつていたところ、同年七月一一日同乾燥機の鉄蓋が吹き飛ぶ事故が発生したことは当事者間に争いがない。
 二 被告の責任について
 労働安全衛生法関係法令上の第一種圧力容器の製造及び設置に関する諸規則は、第一種圧力容器が、その内部において固体または液体の煮沸、加熱、反応等の操作を大気圧を超える状態で行なう装置であるため、蒸気の噴出等労働作業上の危険を伴い、また破裂した場合には大きな労働災害に至るおそれを有することから、国が、労働安全衛生行政の立場から、その構造等に一定の規格を定め、製造から設置に至る段階において製造許可、構造検査、落成検査等の審査手続を行ない、製造者が製造、搬出し事業者が設置する第一種圧力容器について右規格が確保されるよう監督し、その構造上の安全性を確保することにより労働者の生命、身体、健康を労働災害から保護することを目的とするものであり、国が事業者に対し右安全性を保証する制度ではなく、国が事業者に対し右規制を実施すべき義務を負うものではない。したがって右規制の結果第一種圧力容器の安全性が一般的に確保されることによつて事業者が利益を享受することがあつたとしても、それは事実上の利益にすぎず、前記審査手続上の過誤により規格適合性の審査が十分に行なわれないまま前記規格に適合しない第一種圧力容器が設置されるに至つたとしても、事業者との関係においては、その違法性を論ずる余地はないものと解すべきである。
 本件において原告は右規制実施上請求原因第3項記載の過誤があつたことを被告が原告に対し国家賠償法一条一項に基く責任を負う根拠として主張する。しかし、原告が本件乾燥機を使用する事業者であつたことは前記のとおりであるから、仮にそのような過誤の存在が認められたとしても、前記のとおり原告との関係においては違法性を有しないものと解すべきである。よつて、原告の右主張は理由がない。