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ID番号 06384
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 国鉄清算事業団事件
争点
事案概要  旧国鉄の保線業務に従事してきた者が人材活用センターへの担務指定につき、不当労働行為である、人事権の濫用に当たる等として争った事例。
参照法条 民法415条
労働組合法7条1号
民法1条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容
裁判年月日 1994年8月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 7204 
昭和62年 (ワ) 1154 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集45巻3-4号178頁/タイムズ873号131頁/労働判例670号50頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕
 国鉄においては、現場機関等の各職の責任及び指揮命令系統を確立し、業務の円滑かつ能率的運営を図ることを目的として職制を定め、その職制の内容として、各職の職名、主な職務内容及び指揮命令系統を定め、職員は、職制の定めるところに従い、職務を遂行することとし、職制の現場機関における適用として、所属長が職員に対し、その所属する現業機関等に関する職制に定める職のうち、その者が従事する職の発令を行うとともに、現場機関の長が必要に応じて担務を指定することができることとされているところ、右担務指定の法的性質は、国鉄の労務指揮権に基づいた同一職名下においてなされる担当業務に関する業務命令であって、職員の勤務場所又は職種につき、将来にわたって変更をきたす人事異動である、いわゆる配置転換とは異なるものと解することができる。
 本件担務指定は、就業規則二六条二項の規定に基づき、原告らの所属長である大阪保線所長による担務の指定としてなされたものであるところ、具体的にその内容をみてみると、原告らに対し発令されている職名は、別紙一覧表(一)職名欄記載のとおり重機保線係、保線副管理長、技術係、保線管理係であり、その職務内容は、同表業務内容欄記載のとおりの業務内容であるほか、重機保線係においては、「線路、線路附帯の建造物及び用地に関する作業」が、保線副管理長においては、「線路の検査、線路及び線路附帯の建造物及び用地の監視」が、技術係においては、「線路及び線路附帯の建造物の保守及び施工に関する技術業務」が、保線管理係においては、「線路の検査及びこれに関連する修繕作業並びに線路、線路附帯の建造物及び用地の監視、線路及び線路附帯の建造物の保守及び施工に関する技術業務」がそれぞれその職務内容として定められているのである。これに対し、原告らが配属された人材活用センターにおける業務内容は、別紙一覧表(三)業務内容欄記載の業務であるところ、これを原告らが発令されている職名の職務内容と対比すると、人材活用センターにおける業務の主たるものは線路ないし附帯設備の検査・調査や用地管理業務であって、このような業務は、原告らが発令されている職名の職務内容に含まれるか密接な関連性を有するものであり、原告らに対し、既に発令されている職名下において担当させるべき業務として指定することに何ら問題とされるべきところはなく、したがって、本件担務指定を行う際においては原告らの同意は不要であるというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 本件担務指定は、原告らに対し、新幹線総局長及び大阪保線所長の権限に基づき、国鉄の業務上の必要から設置された人材活用センターへ配属させるためになされたものであって、そこに不当労働行為意思が存在するとは認められないから、本件担務指定をもって不当労働行為であって違法な行為であるとの原告らの主張は採用できない。
 国鉄は、原告らに対し、使用者の有する労働契約ないし就業規則に基づく人事権の行使として、広範な裁量権に基づき職員を勤務場所に配置することができるものであるところ、右配置に関し、国鉄が右人事権に基づく裁量権を濫用したような場合には、それが違法な行為と評価される場合はあるということはできるが、それ以上に労働契約上の付随義務としても信義則上の義務としても、従業員を適正に配置すべき義務を従業員に対し個別的に負っているものということはできないし、これを負っていることを認めるべき資料はない。
 したがって、本件担務指定にはこれを違法とすべき人事権の濫用の事実を認めることができないことは前記認定説示のとおりであるから、原告らの本件担務指定による債務不履行を請求原因とする請求は、理由がない。