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ID番号 06427
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 倉田学園事件
争点
事案概要  私立学校の校内において教職員が組合活動として行なったビラの配布が無許可ビラ配布に当たるとして、無許可ビラ配布等を禁止する就業規則に違反するとしてなされた懲戒処分の効力等が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1994年12月20日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行ツ) 155 
裁判結果 一部破棄自判,一部破棄差戻
出典 民集48巻8号1496頁/裁判所時報1138号1頁/労経速報1556号3頁/労働判例669号13頁
審級関係 控訴審/高松高/平 3. 3.29/昭和62年(行コ)4号
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1081号125~128頁1995年12月15日/三野秀富・季刊労働者の権利210号48~52頁1995年7月/上村雄一・平成6年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1068〕207~209頁1995年6月/星野豊・月刊高校教育35巻10号86~91頁2002年7月/西谷敏・民商法雑誌113巻3号95~107頁1995年12月/青野覚・季刊労働法177号140~154頁1995年12月/中嶋士元也・月刊法学教室178号90~91頁1995年7月/福岡右武・法曹時報49巻2号257~283
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 本件ビラ配布は、許可を得ないで被上告人の学校(A校)内で行われたものであるから、形式的には就業規則一四条一二号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定は被上告人の学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである(最高裁昭和四七年(オ)第七七七号同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七号九七四頁参照)。
 右の見地に立って本件ビラ配布について検討すると、本件各ビラは、いずれも職場ニュースと題する上告参加人の機関紙であるところ、本件各ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額(五月八日配布のもの)、被上告人との間で予定されていた団体交渉の議題(同月九日配布のもの)、右団体交渉の結果(同月一六日配布のもの)など、上告参加人の労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない。また、本件ビラ配布の態様をみると、本件ビラ配布はA校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして(特に五月八日及び一六日配布の片面印刷のものは、印刷面を内側にして)教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない。また、生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より一五分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等の被上告人側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分は被上告人の不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為を構成するものというに帰する。