全 情 報

ID番号 06449
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 マリンクロットメディカル事件
争点
事案概要  配転命令につき、就業規則に業務上の必要性があるときは配転を命令することができる旨の規定があり、これにより使用者には配転命令権が認められるとされた事例。
 使用者に就業規則の定めによる配転命令権が認められる場合でも、業務上の必要性が認められない場合、また必要性が認められる場合でも、不当な動機・目的でなされるときは配転命令権の濫用と解せられるところ、本件では東京本社から排除しようとする不当な動機・目的があり、右配転命令が権利の濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1995年3月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成4年 (ヨ) 21198 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労経速報1562号19頁/労働判例680号75頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 三 本件配転命令の有効性
 債務者の就業規則中には前記第二の一5のとおり、債務者が業務上の都合により従業員を配転できる旨の規定があり、前記一のとおり、債権者につき採用時の労働契約においてその職種が限定されていたとも認められず、債権者も入社に際し就業規則を遵守する旨の書面を差し入れていたことからすれば、債務者は、業務上の必要に応じ、その裁量により債権者を配転することができるのが原則である。しかしながら、使用者の配転命令権の行使は無制約に許されるものではなく、当該配転につき業務上の必要性が存しない場合または業務上の必要性がある場合でも配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたときもしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとき等の特段の事情があれば、当該配転命令は裁量権の濫用があるとして無効になるというべきである。〔中略〕
 以上に照らして本件配転命令の有効性を検討するに、まず、本件配転命令が債務者の不当労働行為によるものであるとの債権者の主張については、組合が前記二10記載の活動をしたことや、同13、14記載のように、債務者が、債権者以外の組合役員に対しても、Aに対して始末書の提出を求めたり、異職種配転をしたり、Bに対し配転の内示をして、その後同人は債務者を退職するに至っていることなどの事実は認められるものの、本件疎明資料の限度では(例えば〈証拠略〉によっても、むしろ組合活動は債務者経営側にそれと知られないような形でするようにしていたことが認められるなど)、債務者が債権者の組合活動自体に対してこれを嫌悪する不当労働行為意思を有していたとまで認定するには不十分というべきであるものの、他方、本件配転命令につきどの程度業務上の必要性があったかが不明確であるうえ、債務者がそのような配転命令をしたのは、前記認定事実を総合すれば、むしろ、債務者(ママ)が、C社長の経営に批判的なグループを代表する立場にあったなどの理由から債権者を快く思わず、債権者を東京本社から排除し、あるいは、右配転命令に応じられない債権者が退職することを期待するなどの不当な動機・目的を有していたが故であることが一応認められ、結局本件配転命令は配転命令権の濫用として無効というべきである。
 四 本件解雇の有効性
 本件解雇は、債権者が本件配転命令に従わなかったことを主たる理由とするところ、本件配転命令が無効というべきであることは前記認定のとおりであり、また、債務者が主張する他の解雇事由についても、債権者の勤務成績ないし勤務態度の不良をいう点については、前記三認定のとおり、本件疎明資料の限度では具体的解雇事由としてのそれを認めるには不十分であり、また、債務者や経営陣を誹謗中傷する文書を米国本社に送り続けたという点についても、これを認めるに足りる疎明資料はなく、結局本件解雇は正当な解雇事由の存しない無効なものというべきである。