全 情 報

ID番号 06458
事件名 従業員地位確認請求事件
いわゆる事件名 ブリジストン建築用品西部事件
争点
事案概要  上司の許可なく私用のために多額のビール券やゴルフボールなどを購入し、会社に支払いをさせていたことを理由とする懲戒解雇が権利濫用に該当せず有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇事由 / 高齢
裁判年月日 1995年5月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 4626 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1572号7頁/労働判例688号80頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
〔解雇-解雇事由-高齢〕
 右認定の事実によれば、原告は、被告代表取締役Aから、上司の許可なく、被告名義で商品を購入することを禁止する職務上の命令を再三受けたにもかかわらず、これに違反して、上司の許可を得ることなく、被告名義で、商品券、ビール券、新幹線エコノミー切符等、ゴルフボールを購入したものである。
 そして、原告が右代金を期限までに完済しなかったため、被告は、その売主から、代金を請求され、ビール券の残代金一四万二〇〇〇円、ゴルフボールの残代金四一万七五七八円の支払を余儀なくされるという損害を受けた上、被告の社員が、被告代表取締役の指示に違反して、被告に無断で被告名義の物品の購入行為を繰り返した上、その代金を支払わず、被告がその請求を受けるという事態を招来したこと自体、被告の取引相手としての信頼性を著しく損なうものである上、被告の取引関係者や関連会社に対し、被告の職場秩序の保持能力や従業員に対する適正な管理能力についても多大の疑念と不信感を抱かせるおそれが極めて強く、被告の取引上の信用を著しく害するものであるというべきである。
 したがって、原告の右行為が、就業規則所定の懲戒解雇事由である「会社の諸規程、通達命令に違反し、会社に損害を加え」る行為(四八条八号)、「故意又は過失により会社の信用を傷つけ又は損害を加え」る行為(同条九号)に当たることは明らかである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 1 原告は、被告の社員が個人の私的な購入について、被告の関連会社から被告名義で商品を購入することが日常行われていたのであるから、これを理由とする本件懲戒解雇は重きに失し、不公平であり、本件懲戒解雇が、被告代表取締役Aが原告を嫌ったために採られた処置であるとして、本件懲戒解雇が、解雇権の濫用に当たり、無効である旨主張する。
 そして、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、被告の社員は、被告の関連会社から被告名義でその取扱商品を購入すると代金額が市価より安くなるため、個人的な購入について、右関連会社から被告名義で商品を購入することがあり、その際、上司の決裁を要するという取扱いがされていなかったことが認められる(人証略)。
 (二) しかし、被告の社員が、被告名義を使用して個人取引をすることは、職場秩序の維持や被告の取引上の信用を保持する観点からは望ましくないことが明らかであり、社員が代金の支払を確実に履行し、代金債務の支払などについて取引上の紛争を起こさないことを前提としてのみ、社員の利便を図るという見地から許容する余地のある措置というべきであるところ、前判示のように、被告代表取締役Aは、原告が、Bから依頼された被告名義によるタイヤの購入について、同人から預かった代金の一部の支払をせず、前判示のような金銭上の紛争を起こしたことや、被告名義の個人取引を頻繁に行い、その額が多額になっていることを知り、原告のこのような行為が職場秩序を害し、被告の信用を損なったり、被告に損失を与えることを危惧して、原告に対し、上司である総務部業務課長又は総務部長の許可なく、被告名義の購入行為をすることを再三禁止したものであり、右の経緯及びその後の原告の行動に照らすと、被告代表取締役Aが、原告について、特にこのような措置を採ったことも不合理とはいえず、原告もこれに従うべき職務上の義務があったものと認められること、原告は、被告代表取締役の右職務命令に違反し、約二か月の間に、上司の許可なく、被告に無断で右各行為を繰り返しており、その購入額も多額であること、原告の右行為の結果、被告が支払を余儀なくされた金額は、約五五万円と多額である上、前判示のように、被告の社員が、被告代表取締役の職務命令に違反して、被告に無断で被告名義の物品の購入行為を繰り返した上、その代金を支払わず、被告がその請求を受けるという事態を招来したこと自体、被告の取引相手としての信頼性を著しく損なうものである上、被告の取引関係者や関連会社に、被告の職場秩序の保持能力や従業員に対する適正な管理能力についても多大の疑念と不信感を抱かせるおそれが極めて強く、被告の取引上の信用を著しく害する行為であること、原告は、その後の被告の事情聴取に対しても、誠意ある対応をしておらず、現在に至るまで自己の非を認めていないことからすれば、被告に在籍する限り、同種の行為を繰り返すおそれが極めて高いものと認められること、原告以外の被告社員が、個人的な購入について、被告の関連会社から被告名義で商品を購入することがあったとしても、本件のように、被告代表取締役の職務命令に違反したり、短期間に多額の取引を繰り返したり、代金の支払を遅滞して、被告にその支払を余儀なくさせるような損害を与えたものとは、認めるに足りないことなどの点に照らすと、原告の右行為は、被告の職場秩序を著しく害するものであり、その情状も極めて重いものであるというべきであり、本件懲戒解雇は、被告代表取締役Aが、原告を嫌ったため、原告の前記の行為を口実に採られた措置であることも認められず、本件における諸般の事情に照らしても、客観的にも合理的な理由があり、社会的にも是認し得るものであって、重きに失するとか不公平であるとは認めるに足りない。
 したがって、本件懲戒解雇が、解雇権の濫用に当たるものとは認められず、ほかにこれを認めるに足りる事情の立証もない。