全 情 報

ID番号 06474
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 門司信用金庫事件
争点
事案概要  人事考課において、第一組合の組合員の賃金、賞与の査定を第二組合の組合員のそれよりも低く決定してきたとして、第二組合の組合員の賃金、賞与との差額分の損害賠償が信用銀行に対して求められた事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法37条,92条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 1978年12月7日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ワ) 992 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 時報931号122頁/労働判例320号56頁
審級関係
評釈論文 手塚和彰・判例評論253号44頁
判決理由  四 被告の不法行為
 ところで、以上の如き原告らに対する各賃金、臨給の支給が原告らの主張するような被告の不当差別によるものであるならば、原告らは適正な評価を受けた場合に支給されたであろう賃金、臨給の請求権を不当に侵害されたことになるので、右と現に支給を受けた額との差額を不法行為による損害賠償として被告に請求できるものと解するのが相当であるところ、被告は、原告らの賃金、臨給が低いのは人事考課により適正に評価した結果である旨主張するので、この点について判断する。
 (中 略)
 労組が結成される以前或いは人事考課制度が採用される以前においては、労組員も同期入庫者と同等に昇給、昇進し、賃金、臨給もほぼ同額に扱われるのが一般的であったが、労組が結成され、臨給、昇給に人事考課が導入されてからは、臨給や昇給において、労組員は従組員に比較して、必ず低く査定されるようになったこと、人事考課が導入された昭和四〇年から同四二年頃にかけては、被告の労組員に対する解雇、懲戒処分が続発した時代で、その後昭和四九年に右解雇者の職場復帰が認められるまでは、労組は被告に対し前記各懲戒処分の撤回を求め、裁判斗争を行っていた時期であり労使間の対立が激化していたこと、人事考課における労組員の第一次評定者は労組から分裂しことごとく対立していた従組の出身者で占められていたこと、その査定項目の中には、勤務(積極、執務態度、協調)や性格態度という項目があるが、これらの項目については評定者の主観的、恣意的判断に頼らざるを得ず、労組員であることをもって低く査定される可能性が強いこと、昭和四〇、四一年度の定期昇給には基礎点数が七五点あったが、昭和四二年度からは基礎点数がなくなり、殆んどすべて人事考課のみにより昇給が決められるようになり臨給においても昭和四〇ないし四二年度は一率配分点が五〇点或いは三〇点あったが、昭和四三年度からは右配分点がなくなり人事考課によりほぼ全額臨給額が決められるようになり、昇給、臨給における人事考課は絶対的な影響をもつようになったこと、被告は労組からの人事考課の運用についての団体交渉に応じず、応じたとしても査定結果を公表するにとどまり、労組員と従組員とが対等の方法で評価されていることを肯認し得る資料は公表していないこと等の事情があり、これらの事情を総合すれば、他に特段の事情のない限り、被告は労組員を従組員と比較して、何ら正当な理由がなく差別して、昇給及び臨給査定において不利益に取扱っているものと推認するのが相当である。そこで右特段の事情の有無について判断する。
 (中 略)
 原告らの側にも被告の査定上多少不利益に取扱われても仕方のない事由があることは否定できないけれども、これらの事由はいずれも軽微なものと考えられるから、これをもって前記三、1、2認定の如く労組員と従組員の間に一般的且つ大幅な昇給及び臨給格差をつける理由とするにはきわめて不十分であり、他に右の如き格差をつけるのを相当とする特段の事情は認められないので、被告は労組員である原告らの組合活動を嫌悪し、専らこれに対する報復措置として、右昇給及び臨給について従組員に比較し不当に不利益な取扱いをしてきたものと推認すべきである。
 そうすると、被告は故意又は過失により、原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6に対し、合理的な理由もなく不当に差別して人事考課をすることにより、適切な人事考課がなされたならば支給されたであろう賃金及び臨給と現実に支給されたそれとの差額相当額の損害を与えたものであるから、右損害賠償責任を免れない。