全 情 報

ID番号 06486
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 丸山宝飾事件
争点
事案概要  貴金属宝石類の販売を業とする会社に営業担当として勤務する従業員が、営業のために訪れた宝石店で伝票を作成中に宝石類の入った鞄を盗まれたことにつき、右会社が右従業員およびその身元保証人であった両親に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
身元保証ニ関スル法律5条
体系項目 労働契約(民事) / 身元保証
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1994年9月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 8066 
裁判結果 一部認容,一部棄却(確定)
出典 時報1541号104頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 1 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り、又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解される(最高裁昭和五一年七月八日判決・民集三〇巻七号六八九頁参照)ところ、右の理は、使用者が、雇用契約の債務不履行に基づき、被用者に対し損害の賠償を請求する場合も同様であると解するのが相当である。
 2 そこで、これを本件についてみるに、原告の事業形態、被告Y1の職務内容は一・1で認定したとおりであり、《証拠略》によれば、原告の平成四年度の売上げは四億円弱、利益はプラスマイナスゼロであったことが認められ、被告Y1の日常の勤務態度に何らかの問題があったと認めるに足りる証拠はない。
 また、被告Y1本人によれば、原告に勤務していたときの被告Y1の給料は手取りで一か月約一九万円であったこと、現在の被告Y1の収入は、給料が手取りで一か月約二四万円、ボーナスが税込みで一か年約一〇〇万円であり、自動車を保有している以外格別資産は有していないことが認められる。
 そして、被告Y1には、一・4で認定したとおり重過失があったとはいえ、本件は、第三者の窃盗という犯罪行為によって引き起こされた被害であり、《証拠略》によれば、原告は、多額の貴金属宝石類を扱っているのに、営業担当の従業員が持ち歩く貴金属宝石類について盗難保険に入っておらず、本件を契機に保険に加入したことが認められる。
 3 2で挙げた各点を考慮すると、損害の公平な分担という見地からは、原告が被告Y1に対し請求することができる損害賠償の範囲は、損害額の半分、すなわち、一三七九万六二二円とすることが相当であり、右を越える部分は請求することができないと解すべきである。
〔労働契約-身元保証〕
 被告Y2は被告Y1の父、被告Y3は被告Y1の母であり、平成四年当時も現在も被告Y1と同居していること、被告Y1は、原告から二人の身元保証人を求められ、被告Y3に対しては宝石会社の営業担当の従業員になることを話して身元保証人になることを依頼し、被告Y2に対しても原告に勤務するようになってから仕事の内容は話したことが認められる。
 一方、《証拠略》によれば、被告Y2は一か月約三〇万円の収入しかなく、被告Y3も一か月約二〇万円のパート収入があるにすぎず、両被告とも不動産等の資産は何も有していないことが認められ、原告は身元保証書を徴しただけで、原告が被告Y2及び被告Y3の資産等について調べたり右被告らの保証意思を直接確認したりしたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、原告としても、被告Y2及び被告Y3の身元保証をそう重視してはいなかったのではないかとも考えられる。
 これらの事情及び三・2で挙げた事情を考慮すると、被告Y2及び被告Y3が、それぞれ身元保証人として、被告Y1と連帯して負担すべき損害賠償の範囲は、被告Y1が負担すべき損害賠償額の四割である五五一万六二四九円とすることが相当である。