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ID番号 06487
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 東鉄工業事件
争点
事案概要  元請の作業現場で昼間および夜間の作業に従事した下請の従業員が、夜間作業の後、深夜にマイクロバスを運転して他の従業員を宿舎に送る途中に発生させた交通事故につき、被害者が、元請には運転した下請の従業員の労務を軽減すべき安全配慮義務の違反があったとして、元請および下請を相手として損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1994年9月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 4350 
平成5年 (ネ) 4807 
裁判結果 変更(確定)
出典 タイムズ900号244頁
審級関係 一審/横浜地/平 5.10.13/平成3年(ワ)2680号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 右に認定した事実によると、被控訴人Y1会社の作業現場では、被控訴人Y2の従業員は、直接Y1会社の指揮監督を受けており、作業終了時刻等の関係から作業に従事した者の運転で帰路につくほかなく、その者に作業による疲労が蓄積し運転に危険が生じると、作業に従事した他の従業員の生命身体にも危険の及ぶことから、被控訴人Y1会社はこれら従業員の実質的な使用者として、作業に起因する帰路の危険が生じないよう配慮すべき立場にあったものと認められる。ところが、被控訴人Y1会社は、昼夜作業の作業時間の設定において、夜間作業と昼間作業との間の休憩時間を殆どおかず、昼間作業と夜間作業との間に設定される睡眠時間も余裕のあるものではなかったし、設定される作業の内容自体も体力を要する重労働であったから、従業員に疲労が蓄積する可能性は充分にあったもので、昼夜連続して作業に従事する従業員が、作業終了後運転手を兼ねる場合においては、疲労により居眠り運転に陥る危険性があり、その危険性を予測して被控訴人Y1会社と被控訴人Y2会社との間で運転手の労務の軽減をする旨の合意ができていたにもかかわらず、作業終了後運転を担当する予定であるAが昼夜連続して作業に従事していることを認識し得、被控訴人Y2会社のA自身から自分の作業を軽減するような申し入れがあることは期待できない状況にあったのに、被控訴人Y1会社の現場責任者は、Aの作業を軽減しあるいは休ませる等して、同人に疲労が蓄積し宿舎までの運転業務に支障が生じないよう配慮することがなかったものである。このように、被控訴人Y1会社には、危険防止のためにAの労務を軽減すべき義務があり、その義務の履行を怠ったものと評価せざるを得ない。
 そして、右の労務を軽減しなかった義務違反と本件事故との間に因果関係が認められることは前述のとおりであるから、被控訴人Y1会社は、本件事故により傷害を受けた控訴人に対して損害賠償の義務を免れないものである。