全 情 報

ID番号 06502
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 全税関東京支部事件
争点
事案概要  全国の税関に勤務する職員により組織されている労働組合の支部およびその組合員が、非組合員と比較して昇任・昇格等について差別を受けたとして、非組合員との間に生じた給与の差額、慰謝料等の支払いを求めた事例。
参照法条 国家公務員法27条
国家公務員法108条の7
国家賠償法1条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
裁判年月日 1995年2月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 4723 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働民例集46巻1号253頁/時報1537号13頁/タイムズ886号64頁/訟務月報42巻4号922頁/労働判例682号105頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 国家公務員の昇任、昇格及び昇給については、前記のとおり、職員各自の能力、適性、勤務実績等を総合的に勘案して、合目的的に決定すべき性質のものであるから、これについて、年功序列的運用がされていたからといって、今後ともこれに拘束されなければならないという理由はなく、その時々の組織の管理運営の必要性に応じ、東京税関長の裁量により、いずれを重視するかを決定することができるものというべきである。
 二 昇任、昇格及び昇給の裁量権の限界
 1 右のとおり、昇任、昇格及び昇給をさせるかどうかの判断は、人規で定められた資格要件による制約の範囲内で、任命権者の裁量に属するものであるが、右裁量権が、国公法二七条の平等取扱いの原則、同法一〇八条の七の不利益取扱禁止の原則に違反して、原告組合に所属することを理由として行使されたときは、原告組合員を昇任、昇格及び昇給をさせなかったことが原告組合員の昇任、昇格及び昇給に関する法律上の利益を侵害するものとして不法行為を構成するとともに、原告組合との関係においても、その団結権を侵害するものとして不法行為が成立するものというべきである。
 2 被告は、昇任、昇格及び昇給をさせるべきかどうかの判断が裁量行為である以上、任命権者に昇任、昇格及び昇給をさせるべき作為義務はないとして、その不作為が裁量権濫用として違法となることはない旨主張する。
 しかし、特定の時期において、能力、適性、勤務成績等に差がないにもかかわらず、原告組合に所属していることを理由として昇任、昇格及び昇給について不利益な取扱いをすることが法律上許されないものである以上、原告組合員と在職年数、経験年数、在級年数を同じくする原告組合に所属しない職員と昇任、昇格及び昇給の取扱いを均一にしなければならない義務があるものと解され、これに反した取扱いをした場合には裁量権の濫用となるものといわなければならない。
 3 もっとも、昇任、昇格及び昇給の制度が当該職員の能力、適性や勤務成績を反映させるものとなっている以上、原告組合員が他の非原告組合員に比べて昇任、昇格及び昇給において差別扱いを受けたといえるためには、その差別扱いを受けたとする特定の査定時期において、当該組合員について、比較の対象とされた非原告組合員との間で勤務実績や能力等に差がないことが個別的、具体的に立証されなければならないのであって、成績主義を基本原則とする任用及び給与制度のもとにおいては、入関資格や経験年数が同じであっても、年数を経るに従って勤務実績ないしその評価に影響を及ぼす事情に相応した格差が生じることになるのは当然のことであり、単に原告組合員と同期同資格入関者たる非原告組合員との間に、集団として対比してみると、昇任、昇格及び昇給の格差が存在していることから、直ちに各原告について、原告組合員であることを理由とする差別扱いがされたということはできない。
〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 格差のある原告らは、税関長が、格差のある原告らに対して昇任、昇格及び昇給についてした違法な差別的査定によって、右各原告が同期同資格入関者のうち最も昇任、昇格及び昇給につき劣位に査定された者の給与よりも低額な給与を支給されたにすぎなかったものであり、これは、本件係争期間中において、原告らが同期入関者との間で格差が発生していると主張する時期において少なくとも一回以上行われた結果であるものということができるところ、右各原告は、右違法行為により、精神的苦痛を被ったことが認められる。したがって、被告は、国賠法一条一項により、右各原告個人に対し、これに対する慰謝料を支払うべき義務がある。