全 情 報

ID番号 06515
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ダイフク事件
争点
事案概要  会社との間で期間を六カ月とするパートタイマーの労働契約を締結していた労働者が、数回の契約更新後雇用を打ち切られたため、右雇用の打ち切りを無効として労働契約上の地位確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職 / 合意解約
裁判年月日 1995年3月24日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 42 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例678号47頁/労経速報1588号3頁
審級関係
評釈論文 崔鳳泰・ジュリスト1099号145~148頁1996年10月15日
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 本件労働契約の更新の状況についてみても、採用後七回にわたって更新を繰り返し、平成四年九月三〇日の段階において、すでに約四年近くの間継続して被告の命ずる職務に従事してきたものであることが認められる。
 (二) 右のごとき本件労働契約の特徴からすれば、本件労働契約は、必ずしも短期の雇用を前提としたものではなく、原告が被告の従業員として相当期間労務提供することが当初から予定されていたものであって、その意味で、期間の定めにもかかわらず、特段の事情のない限り、労働契約が反復更新されて原告の雇用が継続されることが、本件労働契約の内容となっていたというべきである。
 (三) したがって、本件労働契約は、当初、原・被告間において期間の定めのある雇用契約として成立し、外形的にはこれが更新されてきたにすぎないものであるとしても、本件雇止め当時は、すでにその性質を変じ、実質的には期間の定めのない雇用契約と異ならない状態で存続していたものというべきである。それ故、被告から、解雇の意思表示がなされた場合はもとより、単に更新拒絶(の意思表示)がなされた場合においても、少なくとも解雇に関する法理が準用され、解雇において解雇事由及び解雇権の濫用の有無が検討されるのと同様に、更新拒絶における正当事由及び更新拒絶権の濫用の有無が検討されなければならないというべきである。
 (四) そうすると、本件雇止めにより本件労働契約の期間が満了したとして、原告が被告従業員の地位を喪失したとの被告主張は採用できない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 本件雇止めが、整理解雇としてなされた色彩の強いものであることを考慮すると、整理の対象として原告を選択したことについては、整理の基準及び基準適用の合理性の視点から、さらに慎重な検討を要するところ、被告が原告を整理解雇の対象として選択した点について、以下のとおり合理性が認められず、本件雇止めは権利の濫用であって無効といわざるを得ない。
 (1) すなわち、前記認定のとおり、被告小牧事業所においては、本件解雇ころ、パートタイマーが相当数就労しており、その後も小牧事業所においては必要に応じてパートタイマーを募集していたのであるから、このような事情の存する本件においては、被告にパートタイマーを削減する抽象的な必要性があったとしても、単に原告がパートタイマーであるということのみをもって原告を整理の対象とすることが許されないことはいうまでもない。
 (2) また、原告が正規の従業員の定年年齢たる六〇歳を超過していることについても、前記認定のとおり、原告が被告に採用されたのが満五九歳のときであること、本件労働契約は相当期間反復更新されることが予定されたものであったこと、原告採用時の被告の募集対象人員の年齢が五五歳から六五歳程度までであったこと等の原告の採用の経緯に照らすと、被告がこれを選択基準にして原告を整理の対象とすることは、原告との間の信義則に反し、著しく不合理であって許されないというべきである。
〔退職-合意解約〕
 (二) もっとも、(証拠略)(いずれも右九月三〇日付けの原被告間のフレンド社員雇用契約書)には、「追記、本契約をもって最終雇用契約とする。(九/三〇、三者(A、B、C)にて面談の上了解)。」との書き込みがなされており、右追記部分は、Cが記載したことが認められる(同人の証言。)
 (三) しかしながら、右追記部分には、Cの訂正印のみが押されており、原告の押印はないこと及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、右追記部分は、実際には原告の承諾を得たうえ記載されたものではなく、むしろ、原告が右契約書に署名押印して被告側に渡した後に記載された疑いがあり、いずれにせよ、原告が右のごとき追記内容を承諾したうえで、九月三〇日の調印に応じたとは到底認めがたい。
 4 右のとおり、原告が九月三〇日の調印において、被告を退職する旨の明確な意思を有していなかったことは明らかというべきであり、被告担当者も、原告が一二月末日をもって退職するとの明確な意思を有したうえで右調印に至ったものでないことを十分認識していたものというべきである。
 そうすると、たとえ、被告の担当者において、今回の更新をもって最終契約とするとの意思を原告に伝え、右意思を示す契約書に原告が署名押印したとしても、なんら退職の合意(本件合意解約)の成立を意味するものではないといわなければならない。
 したがって、本件合意解約が成立したため原告は被告の従業員の地位を喪失した旨の被告主張は採用できない。