全 情 報

ID番号 06523
事件名 賃金仮払仮処分申請事件
いわゆる事件名 新潟労災病院(第二・賃金仮払い)事件
争点
事案概要  労災病院で期間の定めのある雇用契約を更新を重ねて継続していた嘱託職員が、病院の剰員を理由として雇い止めされたのに対して、賃金仮払いの仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1995年5月10日
裁判所名 新潟地高田支
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 3 
裁判結果 却下
出典 労働判例676号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 債権者らと債務者との雇用関係は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となったとまではいえないものの、雇用関係を継続することが期待される関係であって、雇用期間の満了により雇止めをするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、雇止めが客観的に合理的理由がなく社会通念上妥当なものとして是認することができないときには、その雇止めは信義則上許されないものとなる関係にあると認めるのが相当である。そして、その場合には期間満了後における債務者と債権者らの法律関係は従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係になると解するのが相当である。〔中略〕
 右認定の事実からすると、本件雇止めは、外来部門の看護婦について、病棟部門の看護婦に欠員等が生じた場合に備えて、夜勤等が可能な一般職員を配置し、また、外来部門についても臨機応変かつ的確な患者との対応をするには看護助手ではなく看護婦の配置が望ましいとの方針に基づくものであり、これによって剰員となった外来部門の四号嘱託を雇止めをしたものであって、このこと自体は、一応の合理性が認められる。
 しかしながら、債権者らは、期間の定めのある嘱託職員であるとはいえ、雇用契約の継続が期待されていたのであるから、本件雇止めの理由が、債務者側の労災医療、地域医療の的確な遂行という公益を目的とする場合であっても、債権者らの雇用の場を安易に奪うことは許されず、雇止めを回避するための相当の努力をすることが要求されると解するのが相当である。しかして、債務者としては、病棟(看護助手)、中央材料室(看護婦一名、看護助手三名)の四号嘱託職員につき任意に退職の意思がないかを確認をしていることは認められるものの、それ以外の雇止めを回避する方法を取っておらず(例えば、外来に配置されることとなる一般職員である看護婦の一部を病棟勤務とする、あるいは外来の四号嘱託職員については中夜勤ができるか否かを確認する等)、このような場合には、雇止めにつき客観的に合理的な理由があり、社会通念上妥当なものがあるとするに充分ではない。もっとも、債務者は国の定員管理の拘束のもとに各労災病院の収支、患者数の実績を考慮しながら、定員の配置を決定していることが認められるが、国の定員管理の実態がどのようなものであるかの疎明は充分でなく、他の労災病院では、五〇床・二名の中夜勤の体制で、平成四、五年度において一六名(債務者が同六年一一月から配属した人員)を超える病棟がかなりあることも考慮すると、国の定員管理があるから雇止めの回避可能性がないとすることはできない。現に、債務者病院A看護部長は債権者Xに対して、雇用の機会を提供する旨配慮することを伝えていること、また、同年一一月に一般職の正看護婦五名を中途採用したことはこのことを裏付けるものというべきである。
 したがって、債務者の本件雇止めは信義則上許されないものといわなければならず、債権者らと債務者との間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の関係にあるものと解するのが相当である。
〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 賃金仮払仮処分は、雇用の場を奪われて生活に支障をきたした労働者が、本案訴訟を提起、遂行するのに困難な状況にある場合に本案訴訟の実効を担保するために認められているものである。しかして、労働者が生活に支障をきたしているか否かは、同居の家族の収入、資産、さらに、労働者の得ていた賃金は労働者の労働力が顕在化したものであるから労働者が他所で就労することが可能であるか否か等を総合的に勘案してなされるべきである。