全 情 報

ID番号 06562
事件名 保全異議申立事件
いわゆる事件名 駸々堂事件
争点
事案概要  書店に定時社員として入社し勤務してきた従業員が、会社が行った賃金および労働時間、雇用期間等に関する労働条件の変更は同人の同意に基づかず、また、その内容は就業規則、労働協約の水準にも達していない無効なものであるとしてその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法93条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 病気
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / その他
裁判年月日 1995年9月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (モ) 51322 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例681号31頁
審級関係
評釈論文 有田謙司・法律時報68巻9号74~77頁1996年8月
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 就業規則の変更は、個別的合意がなくても、合理性があれば有効と解されるから、合併前の就業規則(旧就業規則)から合併後の就業規則(新就業規則)への変更に合理性があるといえるかについて検討する。〔中略〕
 賃金の改定は、労働条件の枢要な部分の変更であるから、原則的には労働者の個別的同意が必要であり、これを欠く場合には、整理解雇が容認されるような高度の必要性を要するものと解すべきところ、旧就業規則(〈証拠略〉)によると、債権者が受ける時給は、改定時点において、九六六円であったものが、新就業規則(〈証拠略〉)によると、七三〇円となり、約二五パーセントの減収となるうえ、昇給もなくなるから、更に三か月ごとに時給一〇円の減収になると一応認められる。
 右減収は、後記勤務時間の改定を加えると一層深刻であり(給与が半減することになる。)、前記第三の二・1(一)の事情を十分考慮しても、こと債権者に関する限り、賃金の改定に合理性があるとはいい難い。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 勤務時間の改定も、賃金の実質的変更につながるから、これを個別的同意のない労働者に受忍させるためには、高度の合理性を要するものと解すべきところ、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者は、別紙「労働条件」記載のとおり、休憩時間の一時間一五分を含め、一日八時間の時給を得られたが、新就業規則(〈証拠略〉)によると、稼働時間は一日六時間(休憩時間は無給)となり、二五パーセントの減収となると一応認められる(なお、旧就業規則には、休憩時間を有給とする旨の定めはないが、労働契約の内容になっていたものである)。
 右減収は、前記賃金の改定を加えると一層深刻であり、前記第三の二・1(一)の事情に照らしても、こと債権者に関する限り、勤務時間の変更に合理性があるとはいい難い。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-その他〕
 旧就業規則(〈証拠略〉)によると、定時社員について、雇用期間の定めはなかったが、新就業規則(〈証拠略〉)によると、雇用期間は六か月間と定められたと一応認められる。
 右改定も、労働条件の枢要な部分に関わるものであって、前記第三の二・1(一)の事情に照らしても、合理性があるとはいい難い
〔解雇-解雇事由-病気〕
 右事実によると、債務者がなした「雇用契約終了のご通知」は、通常解雇の意思表示と解し得る。
 2 そこで次に、右解雇の効力について検討するに、疎明資料及び審尋の全趣旨によると、(1)旧就業規則(〈証拠略〉)は、解雇事由を列挙しているが、傷病による欠勤については定めを設けていないこと、(2)債権者が属していた定時社員の労働組合であるA書店労働者組合(平成二年一二月末解散)とB会社との間の労働協約(〈証拠略〉)には、一二〇日間の私傷病補償のほか六か月間の休職が認められており、私傷病により欠勤しても、九か月間は職を失うことはなかったこと、(3)正社員についてみると、就業規則(〈証拠略〉)によれば、休職期間の二年間及びその前の一五〇日を欠勤してはじめて「退職」の扱いになり、改定案(〈証拠略〉)によっても、休職前五〇日ないし二三〇日と休職期間の一年間を超えてはじめて「退職」になること、(4)正社員の労働組合であるA書店労働組合と債務者との間の労働協約(〈証拠略〉)でも、私傷病欠勤期間は五か月とされ、二年間の休職期間が定められていること、(5)債権者は、定時社員であるとはいえ、昭和五八年から本件解雇まで約一〇年間にわたって債務者に勤務してきたものであるところ、給与制度は異なっていたが、労働の実態は、残責業務を除くと変わらぬものであった(残責業務も全ての正社員が行っていたわけではない。)こと、(6)A書店労働者組合が解散された後も、私傷病を理由とする欠勤を理由として、更新を拒絶されたり、解雇・退職となった者はいないこと、(7)債権者は、同年一二月二日、「雇用契約終了のご通知」を受け取ると、同月三日、退院し、債務者に診断書(〈証拠略〉)を提出しているが、同診断書によると、「上記疾患のため当科入院中である。向後一ケ月の入院又は自宅療養を要する。以後は就労可能と考えられる。」とされており、ほどなく就労可能な状態であったものであり、職場復帰の意欲も十分あったこと(〈証拠略〉)、(8)債務者は、債権者の健康状態について、十分な調査をすることなく、解雇に踏み切ったものであって、後一か月で就労可能になるとは考えていなかったこと(〈証拠略〉)、が一応認められる。
 右事実によると、私傷病補償をした各労働協約(〈証拠略〉)を債権者に直接適用することは無理にしても、解雇の合理性を考えるに当たっては、その趣旨を十分考慮すべきところ、債権者の病はようやくほぼ癒え、一か月後には職場復帰が可能となっていたのであるから、本件解雇は酷であり、解雇権の濫用というほかない(なお、旧就業規則により解雇事由が制限されているとすれば、解雇事由がないともいえよう)。