全 情 報

ID番号 06566
事件名 異動命令無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 ケンウッド事件
争点
事案概要  女性従業員が、配転命令を幼児の保育に支障が生じる等の理由で拒否し長期間出勤しなかったことを理由として停職・懲戒解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
男女雇用機会均等法28条1項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1995年9月28日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 3848 
裁判結果 棄却
出典 時報1550号122頁/タイムズ920号192頁/労経速報1577号18頁/労働判例681号25頁
審級関係 一審/06168/東京地/平 5. 9.28/昭和63年(ワ)6997号
評釈論文 合田智子・平成8年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊945〕388~389頁1997年9月/深谷信夫・労働法律旬報1409号13~17頁1997年6月10日/深谷信夫・労働法律旬報1410号27~33頁1997年6月25日/西井龍生・判例評論450〔判例時報1567〕223~228頁1996年8月1日/斉藤誠・労働法律旬報1372号44~48頁1995年11月25日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、被控訴人会社の労働協約及び就業規則には、「人事は会社の権限と責任で公平におこなう。異動のうち、出向(従業員の身分を保持したまま、関連会社又はこれに類する機関の指揮命令系統のもとに業務を行うこと)、転籍(関連会社への転出)については、本人の同意のうえ行う。」(労働協約三〇条)、「会社は、業務上必要あるとき従業員に異動を命ずる。なお、異動には転勤を伴う場合がある。」(就業規則三五条)との定めがあり、現に労働協約及び就業規則に基づいて従業員の異動(転勤)を行っており、昭和六一年一〇月に生産本部技術部門を目黒区(略)から八王子事業所に移管した際には、従業員二四八名につき異動を実施したことが認められ、控訴人が昭和五〇年七月に被控訴人会社に入社するにあたり、両者間で締結された労働契約には控訴人の就労場所を特定の勤務地に限定する旨の合意がされたことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人会社は、控訴人の個別的同意なしに控訴人の勤務場所を決定し、控訴人に異動(但し、出向と転籍を除く。)を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 使用者は、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う異動は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるから、使用者の異動命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないところ、当該異動命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該異動命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該異動命令は権利の濫用になるものではないというべきである(最高裁判所第二小法廷昭和六一年七月一四日判決・裁判集民事一四八号二八一頁参照)。〔中略〕
 控訴人は、転居のできない理由として、現在の生活状況を変えることは非常な不利益を伴うこと、夫に転居の義務はないこと等を主張し、これに沿う供述をする。また、(人証略)も勤務状況等に鑑み転居は困難であると証言する。しかしながら、夫婦が共に仕事を持ち、かつ、子が幼児である場合には、一般に妻により多くの負担がかかるであろうから、それによって通勤や勤務に支障が生ずる場合には、夫婦双方が協力し合って前向きに問題を解決するよう努力すべきは当然である。(人証略)により認め得る当時の控訴人の夫の職務内容、勤務状況に鑑みると、転居に伴ってある程度の不便・不利益の伴うことは否定し得ないが、これは転居に伴い通常甘受すべき程度のものであり、転居を妨げる客観的障害事由ということはできない。〔中略〕
 雇用機会均等法二八条一項においては、女子を雇用している事業主に対し、女子従業員が育児のため退職しなくてもすむように、育児休業その他の育児に関する便宜の供与をなすよう努力義務が課されていたから、被控訴人においても、同条項の趣旨に従い、女子従業員である控訴人に対し、その長男の保育につき、保育園等に預ける場合の勤務時間について配慮しなければならない。
 この点については、被控訴人は、前記のとおり、本件異動命令を発令するにあたり、控訴人との間で、通勤時間及び保育問題等につき話し合いの機会を持ってできる限りの配慮をしようと考えていたものであり、控訴人が本件異動命令に従って八王子事業所において就労した場合には、控訴人の長男の保育につき、保育園等に預ける場合の勤務時間(遅刻・早退の取扱いを含む。)に十分配慮する用意があったのであるから、被控訴人には同条項の違背はないというべきである。