全 情 報

ID番号 06730
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 原シート製作所事件
争点
事案概要  高周波ウェルダーによる塩化ビニール製品溶着作業中に発生した通電事故につき、被災者が使用者の安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1995年7月21日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 2791 
裁判結果 棄却(確定)
出典 タイムズ908号172頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 1 本件事故は、高周波を発していた本件機械の金型部分に接触したことによって生じたものであるとは認められるものの、その原因は、右のとおりあくまで高周波であって通常の電流によるものではないから、通常の電流等による感電創のように電流が身体を通電したことによる傷害と同様の傷害が身体全体にわたって生じたと推断することはできない。
 そして、高周波による熱傷は、高周波による電極の変化に追随できない分子の運動による誘電損であることからすれば、その受傷部位は電極と電極の間にあって右誘電損が生じた部分、及びそれによって生理的に影響を受ける部位に限られているというべきである。
 これを本件について見ると、高周波による接触部位としては、まず、右前腕のうち本件受傷部位があり、この部位に通常の火傷類似の皮膚障害が発生したことからすれば、高周波が生じた一方の電極部分が右接触した金型部分であることは明らかであるところ、他方の電極部分は、高周波の特性から右受傷部位の周辺部か少なくとも、プレス台に置かれていた右手指の末端部であるというべきであって、原告の身体又は原告の身体全体が高周波電界内に置かれたと認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、右皮膚障害部位及びその周辺の限られた部位に限って高周波による誘電損が発生し、これに伴い原告の障害が発生したものと推認するのが相当である。〔中略〕
 前記症例報告等によれば、高周波電界内において手指がいわばプレスされたという、本件よりも重篤な誘電損が身体に発生したと認められる事例においても、その障害の発生部位はほぼ高周波電界内におかれた部位か、その周辺部又は末梢側に限られており、全身症状については何ら触れられていないのであって、事故態様及び接触部位の皮膚障害の程度が、ともに右症例報告等の事例よりも軽度であると認められる本件事故においては、たとえ高周波による熱傷が通常の熱傷の場合と異なり、全層にわたって損傷が起き、水分含有量の高い組織、特に血管系などに高度の損傷を起こすものであるとしても、原告の主訴の部位すなわち、両手・両足等、本件受傷部位を著しく越えて中枢側や全身に及ぶ範囲にまで、高周波による誘電損が発生したと認めることは、到底できない。
 したがって、本件事故による熱傷が「両上下肢末梢神経不全麻痺」の原因であると認めることもできないし、他に本件事故と右障害との間に相当因果関係を認めるに足りる証拠はない。
 3 以上の説示によれば、本件事故による原告の傷害の程度は、軽い火傷程度の「右前腕部感電創」にとどまるというべきところ、右傷害がこの程度のものとすれば、これによる損害は、せいぜい右感電創にかかる治療費及びこれが完治するまでの数日間の休業による損害に止まるものというべく、入院の必要性及び後遺障害の残存を認めることはできない。したがって、原告請求の入院にかかる損害(入通院慰藉料、入院雑費)休業損害及び後遺症残存にかかる損害(後遺症慰藉料及び逸失利益)の存在も、これを認めるに足りないというべきである。そうすると、本件事故による損害は、既に原告に支払いずみの労災保険法に基づく給付の合計額を上回るとは認められないから、原告の本訴請求は失当というべきである。