全 情 報

ID番号 06776
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 丸子警報器事件
争点
事案概要  女子臨時社員と女子正社員との賃金格差につき、両者の労働時間や仕事の内容が同一であることに着目し、女子正社員の賃金の八割相当額までの差額につき、損害賠償請求を認容した事例。
参照法条 日本国憲法14条
労働基準法3条
民法90条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 女子若年定年制
裁判年月日 1996年3月15日
裁判所名 長野地上田支
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 109 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 タイムズ905号276頁/労働判例690号32頁/労経速報1590号3頁
審級関係
評釈論文 紺屋博昭・日本労働法学会誌89号152~160頁1997年5月/水町勇一郎・ジュリスト1094号99~101頁1996年7月15日/菅野淑子・労働法律旬報1393号25~30頁1996年10月10日/石井保雄・季刊労働法181号178頁1997年3月/浅倉むつ子・法律時報68巻9号78~81頁1996年8月/浅倉むつ子・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕68~69頁/鍛治利秀・労働法律旬報1382号34~38頁1996年4月25日/中窪裕也・ジュリスト1097号177~180頁1996年9月1
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-女性若年定年制〕
 六 右の観点から、本件における原告ら女性臨時社員と正社員との賃金格差について検討する。
 これまで述べた本件における状況、すなわち、原告らライン作業に従事する臨時社員と、同じライン作業に従事する女性正社員の業務とを比べると、従事する職種、作業の内容、勤務時間及び日数並びにいわゆるQCサークル活動への関与などすべてが同様であること、臨時社員の勤務年数も長い者では二五年を超えており、長年働き続けるつもりで勤務しているという点でも女性正社員と何ら変わりがないこと、女性臨時社員の採用の際にも、その後の契約更新においても、少なくとも採用される原告らの側においては、自己の身分について明確な認識を持ち難い状況であったことなどにかんがみれば、原告ら臨時社員の提供する労働内容は、その外形面においても、被告への帰属意識という内面においても、被告会社の女性正社員と全く同一であると言える。したがって、正社員の賃金が前提事実記載のとおり年功序列によって上昇するのであれば、臨時社員においても正社員と同様ないしこれに準じた年功序列的な賃金の上昇を期待し、勤務年数を重ねるに従ってその期待からの不満を増大させるのも無理からぬところである。
 このような場合、使用者たる被告においては、一定年月以上勤務した臨時社員には正社員となる途を用意するか、あるいは臨時社員の地位はそのままとしても、同一労働に従事させる以上は正社員に準じた年功序列制の賃金体系を設ける必要があったと言うべきである。しかるに、原告らを臨時社員として採用したままこれを固定化し、二か月ごとの雇用期間の更新を形式的に繰り返すことにより、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことは、前述した同一(価値)労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反する格差であり、単に妥当性を欠くというにとどまらず公序良俗違反として違法となるものと言うべきである(なお、前提事実記載のとおり、臨時社員にもその勤続年数に応じその基本給ABCの三段階の区分が設けられていたが、その額の差はわずかで、かつ勤続一〇年以上は一律であることから、正社員の年功序列制に準ずるものとは到底言えない。)。
 もっとも、均等待遇の理念も抽象的なものであって、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内における待遇の差に使用者側の裁量も認めざるを得ないところである。したがって、本件においても、原告ら臨時社員と女性正社員の賃金格差がすべて違法となるというものではない。前提要素として最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、被告において同一(価値)労働同一賃金の原則が公序ではないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、原告らの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の八割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに越え、その限度において被告の裁量が公序良俗違反として違法となると判断すべきである。