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ID番号 06779
事件名 業務外認定処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 静岡労働基準監督署長(三菱電機)事件
争点
事案概要  家庭電機製造会社の静岡工場で製品製造に従事してきた従業員が、東京近郊の販売店に出張し、店頭販売業務に従事中に脳出血により死亡したことにつき、遺族が、右死亡を業務に起因するものであるとして労基署長の不支給処分を争った事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1996年3月21日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行コ) 139 
裁判結果 棄却(原判決取消)(上告)
出典 労働民例集47巻1-2号59頁/訟務月報43巻3号532頁/労働判例696号64頁/労経速報1593号11頁
審級関係 一審/05825/静岡地/平 3.11.15/昭和61年(行ウ)7号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aの脳出血は突発性頭痛により発症し、徐々に症状が進行して、見当識障害を発現し、約二〇時間かかって意識昏睡状態に陥ったものと考えられ、発症の経緯、症状の進行は緩慢であったこと、B病院におけるAの開頭手術記録中には、脳動静脈奇形の所見の記載はないこと、Aは発症当時四〇歳の男性であったこと等の事実は、隠れた脳動静脈奇形による出血の場合の臨床症状等に酷似し、仮に前記のCT所見による巨大な血腫が、高血圧性脳出血や脳動脈瘤破裂によって形成されたものであったとすれば、Aはもっと早期に重篤な症状を呈していたものと考えられる。
 右の各認定事実によれば、Aの脳出血は、隠れた脳動静脈奇形が破綻したことによるものと認めるのが相当であり、成立に争いのない甲第六三号証、当審証人Cの証言、原審における鑑定結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし採用することができない。〔中略〕
 右(三)ないし(五)の各事実に照らして、前記の本件業務内容等を検討すれば、Aの脳出血は自然的経過で発生した可能性が強いものというべきであり、本件業務によるストレス反応がその原因であると考えることは、著しく医学的知見に反するものというべきである。〔中略〕
 被控訴人は、出張中の従業員に対するD会社の健康管理体制の不備、Aの発症後の十分な看病、症状の監視体制等の欠如により、Aにおいて迅速な診断、治療を受ける機会を奪われたから、出張中という業務の特殊な状況によってAの症状の増悪、死亡が招来されたものであって、Aの死亡について業務起因性が認められる旨主張する。
 しかしながら、前記のとおり、昭和五五年七月五日午後四時ころAはエアコン売場で仕事中気分が悪くなり、E電器店二階の店長室のソファーで休み、午後五時ころ同店主任Fの運転する乗用車でG館に送ってもらうことになり、その途中午後九時二五分ころH病院で医師の診療を受けたこと、そして、その時はAは意識もはっきりし、特に異常所見が認められず、血圧も正常値であったこと、右Fは入院を勧めたけれども、AはG館に帰って休みたいと希望し、医師も大丈夫であると言ったので、G館に帰ることになったこと、この間何度か吐き気をもよおしたが、G館に着いた時も、Aは意識がはっきりしていて、「寝ていれば直る。」と言っていたこと、その後他人の部屋をトイレと間違えたり、吐き気や頭痛を訴えたが、Iが徹夜で看病し、翌六日午前四時からAが眠りについたため、Iは午前九時ころJに事後のことを頼んで出勤したこと、午前一〇時ころJはH病院に電話して病状を確認し、「疲労によるもので心配はない。」との返答を受けたので、やや安心し、そのままAを寝かせていたこと、午前一一時一〇分ころAがトタン屋根の上に倒れた状態でいたこと等の異常が認められたため、同宿の者やG館の従業員が午前一一時二〇分ころ救急車を手配してB病院で受診させ、午前一一時五〇分ころ同病院で直ちに脳検査を受けたことの以上の事実が認められるから、Aは、常にE電器店のFや同宿の者らの介護、看病を受け、比較的早期に最初の医師の診断を受けることもできたものというべきであり、また、症状の進行が緩慢であり、A自身が「寝ていれば直る。」と言っていたことや「疲労によるもので心配はない。」との医師の説明があったため、しばらく経過観察が続けられていたものであるが、その後のAの異常について同宿の者やG館の従業員が早い段階でこれに気付き、直ちに救急車の手配をしてB病院で受診させているから、これらの事実経過に照らせば、Aが出張中であったため迅速な診断・治療を受ける機会を奪われたということはできず(原審における鑑定の結果は右の判断を覆すに足りない。)、したがって、被控訴人の右の主張も、その前提事実を欠き、失当である。