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ID番号 06821
事件名 雇用契約不存在確認請求事件/賃金反訴請求事件/立替金請求事件
いわゆる事件名 神谷商事事件
争点
事案概要  組合員が約七か月にわたりほとんど就労せず組合活動のために屋台営業に従事したこと、社長室に乱入したこと等を理由に解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
裁判年月日 1996年6月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 12477 
平成6年 (ワ) 2167 
平成6年 (ワ) 10738 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例699号51頁/労経速報1610号3頁
審級関係
評釈論文 倉田原志・民商法雑誌116巻2号122~129頁1997年5月
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
 先ず、本件解雇事由のうち本件屋台営業についてであるが、前記認定事実によると、原告会社と組合とは、昭和五九年七月以降労働条件などをめぐって紛争状態にあったところ、組合は、その闘争の一環として本件会館正面玄関前の歩道上において屋台を設置して焼鳥営業を展開し、この責任担当者として被告を当たらせたというのである。このように本件屋台営業は、それ自体組合活動の一環として本件会館玄関前とはいえ歩道上において行われたのであるから、原告会社の本件会館についての施設管理権と抵触するところはなく、原告会社の営業とも関わりのないのであるから、その妨害行為とも評することもできず、したがって、原告会社は本件屋台営業自体について組合ないし被告に対しその責任を追及できる立場にはないというべきである。
 そこで、問題となるのは、被告がおよそ七か月間余り、休日及び雨天の日を除き、殆ど本件屋台営業に従事し、このため、この間不就労と評価できるほどの勤務状況にあったということである。
 被告は右欠務等につきストライキ権の行使を主張するが、前記認定のとおり、被告は専ら屋台の準備、本件屋台営業等を行うために、職場を離脱する方便として、指名ストライキ権の行使と主張していたのであるが、このストライキ権の行使なるものは、組合の要求貫徹のための手段として行われたものと解することはできず、組合の指令に基づくものであったとしても、争議行為と評価することはできない。組合用務のために指名ストライキ権行使が許されないのと同様、本件指名ストライキ権の行使は、専ら被指名者である被告をして、本件屋台営業という組合要務に従事させるための名目にすぎず、正当目的を欠き、ストライキ権の濫用であると言わざるを得ない。
 次に、「A」なる機関の無断設置についてであるが、前記認定したところによると、B銀行から被告宛に「C会館六階、D支部代(ママ)表者E様」なる簡易書留郵便が配達されたことをもって被告が本件会館六階に「支部屋台部」なる機関を無断で設置したと判断したというのである。
 しかし、被告が当時他に本件会館内に人的・物的設備をしたことはなかったというのであるから、右の事実のみをもって原告会社の主張する就業規則四条、二六条、三〇条三号、三三条六号に違反したということはできず、したがって、本件解雇事由を定めた同規則二一条九号に該当することもない。
 最後に、社長室への乱入・占拠・撹乱・妨害についてであるが、前記認定したところによると、被告は、F書記長ら八名とともに事前の何らの通知などもなくこれまでの取り扱いを無視していきなり社長室に乱入し、同室で執務中のG副社長ら管理職の同室からの退去要請をも無視して同室に約一時間にわたり滞留し、同室で執務中のG副社長の執務の妨害行為に及んだというのである。
 そうすると、被告の右行為は、就業規則四条、二六条、三〇条七号、三一条一、九及び一〇号、三六条六号に違反し、解雇事由を定めた同規則二一条九号に該当するということができる。
 そこで、本件解雇の合理性及び相当性について検討するに、被告は、組合活動のためにおよそ七か月間余りにわたり原告会社の再三にわたる警告を無視して労務提供を拒否して本件屋台営業に従事していたというのであるから、その態様もさることながらその期間の点においても軽視することのできない行為であるということができる。また、社長室への乱入等も、その態様、手段・方法の点等からみても到底看過することのできない行為であるといわなければならない。
 以上の諸点を考慮すると、原告会社の対応には些か硬直したところがないではないが、本件解雇は合理的理由を有し、相当であったということができる。