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ID番号 06832
事件名 労働者災害補償保険給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 淀川労働基準監督署長(聖徒病院)事件
争点
事案概要  仮眠室からの転落による負傷につき療養補償給付を申請していた労働者が、それを不支給とする決定を労基署長から受け、審査請求をした後、再審査請求を経ずに取消訴訟を提起した事例。
参照法条 行政事件訴訟法8条2項1号
労働者災害補償保険法37条
労働者災害補償保険法35条
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 前置主義
裁判年月日 1996年7月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (行ウ) 2 
裁判結果 却下(確定)
出典 労働判例714号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-前置主義〕
 1 労災保険法三五条一項は、審査請求と再審査請求との二段階の不服申立手続を定め、同法三七条は、処分取消の訴えにつき、再審査請求に対する労働保険審査会の裁決を経た後でなければ提起できないとして、裁決前置主義を採用している(行訴法八条一項ただし書参照)。
 そして、行訴法八条二項一号によれば、右裁決前置主義の例外として「審査請求があった日から三箇月を経過しても裁決がないとき」には、裁決を経ないで取消訴訟を提起できるものとされており、右例外規定にいう「審査請求」とは、審査請求・再審査請求の双方を含むと解される(最判平成七年七月六日民集四九巻七号一八三三頁参照)。〔中略〕
 (一) 思うに、労災保険法が保険給付に関する決定に対する不服申立てにつき二段の審査請求手続を定め、かつ、取消訴訟につき再審査請求の前置を定めている趣旨は、多数に上る保険給付に関する決定に対する不服事案を迅速かつ公正に処理すべき要請にこたえるため、専門的知識を有する特別の審査機関を設けた上、裁判所の判断を求める前に、簡易迅速な処理を図る第一段階の審査請求と慎重な審査を行い併せて行政庁の判断の統一を図る第二段階の再審査請求とを必ず経由させることによって、行政と司法の機能の調和を保ちながら、保険給付に関する国民の権利救済を実効性のあるものにしようとするところにあると解せられる(前掲最判)。
 (二) 右労災保険法の趣旨に鑑みると、第一段階の審査請求に対する判断が既になされている場面においては、前記簡易迅速な処理の要請は後退し、むしろ、第二段階の再審査請求の手続において慎重な審査を行い、併せて行政庁の判断の統一を図ることが法律上予定されているものというべきであって、再審査請求を経ることなく取消訴訟を提起することは許されないといわなければならない(仮に、この場合にも再審査請求を経ずに取消訴訟の提起が可能だとすると、行政庁内部での再考の機会や、行政庁の判断統一の機会が失われ、再審査請求の前置を定めた法の趣旨を没却し、長期的にみれば、かえって国民の権利救済の道を狭める結果となろう。)。
 (三) したがって、この場合、取消訴訟を提起することができるためには、再審査請求の手続を経る必要があり、右手続を経ていないときは、訴えを不適法として却下すべきものと解するのが相当である(最判昭和五六年九月二四日裁集民一三三号四八七頁参照。なお、前掲最判平成七年七月六日は結論として、再審査請求を経ない取消訴訟の提起を適法としているが、右最判は、審査請求に対する裁決がいまだ出ていない事案に関するものであるので、本件とは事案を異にするというべきである。)。〔中略〕
 原告は、本件において、仮に再審査請求を経たとしても、特に新たな資料等の提出がない限り、再審査庁において、これと異なる判断が示されることは期待できないというべきであるから、かかる場合は、むしろ、司法による迅速な解決がなされるべきであって、再審査請求を経ないことにつき行訴法八条二項三号の「正当な理由」が存すると主張するが、右は、要するに、再審査請求をしても、自己に有利な裁決を期待できないというに過ぎないものであって、これだけでは、再審査請求を経ないことにつき正当な理由があるとい(ママ)えない。