全 情 報

ID番号 06855
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 日本国有鉄道清算事業団事件
争点
事案概要  旧国鉄の東北自動車部に採用され、青森営業所に勤務していた女性について、国鉄の民営化後、東日本旅客鉄道に採用され、盛岡市への転勤が命ぜられたケースにつき、不当労働行為、性差別となる権利濫用に当たるとして損害賠償請求がなされたが、右請求を棄却した事例。
参照法条 民法1条3項
民法709条
労働基準法2章
日本国有鉄道改革法23条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1996年9月24日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 230 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ944号138頁/労働判例705号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 1 労働契約違反
 (一) 丙第三六号証によれば、国鉄の就業規則は、人事異動につき、次のように定めていたことが認められる。
 「一八条、職員の人事上の異動(転勤、転職、昇職、降職、昇格、降格、昇給、降給、休職、復職、派遣、休業、復業、退職及び免職)については、所属長又はその委任を受けた者が行う。ただし、総裁が採用を決定した大学卒業者の免職を除く。
 一九条 業務上必要ある場合は、職員に人事上の異動を命ずる。職員は、正当な理由なくして、前項の人事上の異動を拒むことはできない。」〔中略〕
 原告X1本人尋問の結果によれば、原告X1も、昭和五〇年に正職員として採用されるに当たって、他の営業所への転勤のあることについての説明を受けなかったことが認められる。
 しかしながら、前記認定の事実によれば、原告らが採用された当時は、青森営業所から営業係の職員を外に転勤させるという必要性が生じるような状況がなかったものと認められ、原告らが採用された際に転勤について問われなかったのもそのような状況を前提にするものであり、国鉄に前記のような内容の就業規則が存在する以上、原告らもその適用を受けるものというべきであるから、前記のような事実があったからといって、原告らと国鉄との労働契約において、就労場所が青森営業所に限定されていたとみることはできない。
 したがって、原告らの主張は理由がない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 2 配転命令権の濫用
 (一) 本件転勤命令の業務上の必要性
 (1) 前記認定の事実によれば、原告らが勤務していた青森営業所においては、ワンマン化により車掌業務がなくなったこと、昭和六〇年度から運行していた「A号」のガイド業務についても、昭和六二年度からはテープレコーダーによる案内で代替し、営業係の配置を廃止する方針が決定していたことから、営業係が余剰人員となっていたことが認められる。
 原告らは、東北地方自動車部は、観光部門でのサービス向上を方針として掲げていたのであり、本件転勤命令当時、ガイド職である営業係が実質的に不要とされる状況ではなかった等と主張する。
 原告らは、「A号」のガイド業務を昭和六二年度からテープレコーダーによる案内で代替するというのは、原告らを転勤させるための口実であるとも主張し、甲第一一九号証、証人B、同Cの各証言によれば、バス会社は、女子二名の契約社員を平成元年度から「A号」にガイドとして乗務させるようにしたことが認められるが(原告X2は、昭和六三年度には「A号」にガイドが乗務していたと供述しているが、契約社員がガイドとして乗務するようになったのは平成元年度からと認められ、昭和六三年度に外注ガイドが乗務していたのかは証拠上明らかではない。)、昭和六二年度はテープレコーダーによる案内で実際に運行したものであるから、それが原告らを転勤させるための単なる口実にすぎないとは推認し難い。
 (2) 一方、前記認定の事実によれば、盛岡支所では、女子臨時雇用員二名を使用して業務の処理に当たっていたことが認められ、当時国鉄は、厳しく経営の合理化を要請されており、分割・民営化を控え健全な企業体に移行させる要請があったことからすると、青森営業所に営業係として勤務していた原告らを盛岡支所に異動させて、その業務に従事させる必要性があったということができる。
 原告らは、盛岡支所には、本件転勤後に原告らが従事する業務に臨時雇用員二名が従事していたから、原告らを転勤させる必要がなかった旨主張する。しかしながら、盛岡支所において原告らが従事すべき業務に臨時雇用員二名が従事していたことから、原告らを右業務に充てなくても盛岡支所の業務には差し当たりは支障は生じないとしても、臨時雇用員を退職させて、その業務に余剰人員となっていた正職員を充てることは、企業経営の観点からみて合理性があるものというべきであるから、原告らの主張は理由がない。
 (二) 本件転勤命令による原告らの不利益
 (三)〔中略〕原告らに対する本件転勤命令は、業務上の必要性を有するものであるということができる。
 そして、原告X1については、本件の転勤が原告X1に与える生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。
 原告X2についてみると、〔中略〕共働きの夫婦の一方に転居を伴う転勤の必要が生じ、ことに夫婦間に未成熟の子があるような場合には、どのようにして家庭生活を維持し、子を養育していくかについて深刻な問題を生じざるを得ないが、そうであるからといって、家族の別居生活をもたらす転勤命令、あるいは未成熟の子を持つ母親である女子労働者に対する転勤命令が直ちに配転命令権の濫用になるともいえないのであって、原告X2の場合は、本件転勤命令時においては、同原告の両親の援助により子供達の養育をしていくことが可能であり、また、青森と盛岡は隣県であり、その間の距離及び交通事情からすれば、経済的負担を伴うものの、同原告が相当回数青森に帰省することは可能であり、子供達に会うことが極めて困難になるものではないから、本件の転勤が原告X2に与える生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであるとまではいえない。
 (四) 原告らは、本件転勤命令は原告らを退職させるという不当な目的をもってなされたものであると主張する。
 前記認定の事実によれば、原告らは、昭和六一年四月ころからたびたび退職勧奨を受けていたことが認められるが、国鉄は多数の余剰人員を抱え、日本国有鉄道再建監理委員会は、承継法人のうち旅客鉄道会社の要員は二〇万人程度を妥当とすること等を骨子とした国鉄改革に関する意見を出し、内閣は、右意見の趣旨に沿って、最大限の要員の合理化を進めるものとし、昭和六一年五月には、昭和六二年三月三一日までに退職した職員に対し特別給付金を給付する旨の法律が制定されていたものであって、国鉄においては分割・民営化を控えて余剰人員を削減することが急務とされていたものであるから、青森営業所において原告らに対したびたび退職を勧奨したことが不当であるということはできない。〔中略〕
 (五) 原告らは、本件転勤命令は、その手続においても労使関係の信義則に著しく違反するものであると主張し、原告ら各本人尋問の結果によれば、原告らは、昭和六二年三月二日に本件転勤命令の事前通知を受けたが、それ以前に転勤についての意向の打診を受けたことはなかったことが認められるが、国鉄の就業規則では、業務上の必要がある場合は、職員に転勤を含む人事上の異動を命ずることができるとされており、国鉄は、個別的な同意がなくても転勤を命ずる権限を有するものであるから、事前に原告らに転勤についての意向の打診をせず、原告らの同意なくして本件転勤命令を発令したからといって、直ちに配転命令権を濫用するものとはいえない。
 (六) 以上によれば、原告らに対する本件転勤命令が国鉄の配転命令権の濫用であるとの原告らの主張は採用できない。