全 情 報

ID番号 06876
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 関労働基準監督署長(美濃かしわ)事件
争点
事案概要  鶏肉解体作業中に倒れ搬送された病院で死亡した食肉加工会社の従業員の妻が、右死亡は業務との間に業務起因性があるとして、労基署長の不支給処分の取消しを求めた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1996年11月14日
裁判所名 岐阜地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行ウ) 8 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集47巻5-6号586頁/時報1603号140頁/タイムズ937号141頁/労働判例708号43頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 1 労災保険法一条、七条一項一号にいう「業務上の事由による労働者の死亡」及び労働基準法七九条、八〇条にいう「労働者が業務上死亡した場合」とは、労働者が業務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、単に死亡の結果が業務の遂行中に生じたとか、あるいは、死亡と業務との間に条件的因果関係(事実的因果関係)があるというだけでは足りず、これらの間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)の認められることが必要である(最高裁昭和五一年一一月一二日第二小法廷判決・集民一一九号一八九頁参照。)。
 そして、労災補償制度が、業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合にそれによって労働者に発生した損失を補償するものであることからすると、当該発症が当該業務に内在する危険が現実化したことによるものと評価できる場合に、相当因果関係があるというべきである。
 2 右因果関係の立証は、いずれも、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる程度の高度の蓋然性を証明することであり、その立証の程度は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつそれで足りる(最判昭五〇年一〇月二四日民集二九巻九号一四一七頁参照。)ものというべきである。
 よって、厳密な医学的判断が困難であっても、当該労働者の業務内容、就労状況、健康状態、基礎疾患の程度等を総合的に考慮し、それが、現代医学の枠組の中で、当該疾患の形成及び発症の機序として矛盾なく説明できるのであれば、業務と発症との事実的因果関係及び相当因果関係があるというべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 1に判示したところによれば、Aの脳動脈瘤破裂とその業務との事実的因果関係、相当因果関係の有無を判断するには、その発症の前日及び発症前一週間以内に脳動脈瘤を自然的経過を超えて増悪させて脳動脈瘤破裂を発症させるような負荷を業務により受けたか否かだけでなく、それ以前の業務により受けたストレスないし疲労の蓄積が脳動脈瘤を自然的経過を超えて増悪させるものであったか否かについても十分考慮する必要がある。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 3 前判示のとおり疲労の蓄積ないしストレスが脳動脈瘤破裂の危険因子となるところ、Aの業務が同人に対し相当程度の疲労の蓄積ないしストレスを与えたと認められるから、Aの業務と脳動脈瘤破裂の発症との間には条件的因果関係があるというべきである。
 そして、発症前一週間以前の業務がAに相当程度の疲労の蓄積を与えたといえること、そのため、Aは相当長期の休養をとらなければ疲労が回復しない程度に至っており、僅かな刺激によって血圧が上昇しやすい身体的状態のまま発症一週間前に至ったのみならず、疲労の蓄積を解消することができないまま発症当日に至ったこと、発症直前の作業は同人の血圧を相当程度上昇させるに足りるものであったこと、右作業の直後に脳動脈瘤破裂が発症したこと、前記一4で認定した同人の高血圧の状態及び未破裂の脳動脈瘤の予後に照らすと、同人の基礎疾病の状態は、同人の年齢(五三歳)、肥満度(身長一六三・八センチメートル、体重六九・五キログラム)、喫煙(一日平均二〇本)を考慮しても、それだけで脳動脈瘤破裂を発症させるようなものではなかったといえること、同人の業務外の生活において、血圧上昇の発生原因となるような精神的、肉体的負荷をもたらす事由の存在が認められないことを総合すると、脳動脈瘤破裂の発症は、Aの業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができ、両者の間には相当因果関係があるものと認めることができる。