全 情 報

ID番号 06880
事件名 療養補償給付等不支給処分取消請求上告事件
いわゆる事件名 横浜南労働基準監督署長(旭紙業)事件
争点
事案概要  自己所有のトラックを持ち込み会社の指示に従って製品等の輸送に従事していた運転手(傭車運転手)が、災害を被ったことにつき労働者災害補償保険法上の労働者であるとして労災保険給付を請求した事例。
参照法条 労働基準法9条
労働者災害補償保険法1条
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手
労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 労働者
裁判年月日 1996年11月28日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (行ツ) 65 
裁判結果 棄却
出典 時報1589号136頁/タイムズ927号85頁/労働判例714号14頁/労経速報1627号25頁
審級関係 控訴審/06720/東京高/平 6.11.24/平成5年(行コ)124号
評釈論文 遠藤隆久・法律時報70巻4号119~122頁1998年4月/鎌田耕一・労働法律旬報1422号21~31頁1997年12月25日/水町勇一郎・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕94~95頁2000年3月/西村健一郎・判例評論463〔判例時報1606〕221~225頁1997年9月1日/青野覚・季刊労働法184号177~179頁1997年11月/中路義彦、森鍵一・平成9年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊978〕278頁1998年9月/藤原稔弘・日本労働法学会誌91号138~145頁19
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕
 原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人は、自己の所有するトラックをA株式会社の横浜工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、同社の製品の運送業務に従事していた者であるが、(1) 同社の上告人に対する業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった、(2) 勤務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は、出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた、(3) 報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていた、(4) 上告人の所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人が負担していた、(5) 上告人に対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされておらず、上告人は、右報酬を事業所得として確定申告をしたというのである。
 右事実関係の下においては、上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、A株式会社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人がA株式会社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的にA株式会社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。