全 情 報

ID番号 06891
事件名 時間外割増賃金請求
いわゆる事件名 日本コンベンションサービス(割増金請求)事件
争点
事案概要  コンベンション業務を営む会社を退職した労働者が、在職中の時間外労働に関して割増賃金を請求した事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法32条
労働基準法89条1項1号
労働基準法41条2号
労働基準法38条の2
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
就業規則(民事) / 就業規則の周知
雑則(民事) / 附加金
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
裁判年月日 1996年12月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 3586 
裁判結果 認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例712号32頁/労経速報1628号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 被告は、従前、時間外労働に対し時間外手当を支給していたこと、時間外手当から定額の勤務手当に代えた後もタイムカードを設置し、従業員はタイムカードへの打刻を行っていたこと、関西支社では、A支社長の指示により、タイムカードによる勤務時間の管理を厳密に行い、現に一部の原告を除き、原告らは、タイムカードへの打刻を継続的に行い、打刻漏れや直行、直帰などにより打刻できない場合、後に自ら手書きをしたり、管理課が記入するなどしてタイムカードへの記載を怠っていないこと、原告らの業務内容からすると、タイムカードによる勤務時間の管理は十分可能で、現に原告らと同様の業務に従事していた契約社員は、タイムカードに基づいて時間外手当の支給を受けていたこと、(証拠略)(タイムカード)に記載されている時刻をみても、原告らの労働実態に合致し、何ら不自然なものではないことからすると、タイムカードに基づいて原告らの時間外労働時間を算定することができるというべきである。〔中略〕
 2 このように、タイムカードが、原告らの労働実態に合致し、時間外労働時間を算定する基礎となる以上、タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることにつき特段の立証がない限り、タイムカードの記載に従って、原告らの労働時間を認定すべきである。
 もっとも、タイムカードの記載には、タイムレコーダーによって打刻されたものだけでなく、手書きによるものもあり、始業時刻あるいは終業時刻の一方しか記載がないものもある。そこで、これらの取扱が問題となる。
 (一) タイムカードの記載がタイムレコーダーによって打刻されている場合、特段の立証がない限り、その記載をもって始業時刻、終業時刻と認定すべきであるが、手書きされている場合も、これと同様に扱うべきである。なぜなら、〔中略〕管理課が手書きしたものは、正規の手続を経て記載されたものであるし、従業員自らが手書きしたものも、事前にあるいは事後に上長の承認を得ているからである。
〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 (五) このようにタイムカードのない部分及びタイムカードが存在しても記載がない部分について、原告らの時間外労働時間を算定することはできず、原告らが従事した時間外労働時間の算定に当たっては、特段の立証がない限り、タイムカードの記載のみによるべきことになる。また、原告らが代休を取った場合、そのことがタイムカード上明らかであれば、時間外労働時間から控除すべきである(これは、原告らも認めるところである。)。
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 被告は、原告らが時間外労働に従事したにもかかわらず、定額の勤務手当を支給しただけで、労働時間数に従った手当を支給していなかったのであるから、原告らは、被告に対し、平成五年改正前労働基準法三七条一項に基づき、法定外時間外労働につき割増賃金請求権を有する。
〔就業規則-就業規則の周知〕
 被告の就業規則一一条一項は「業務の都合により所定時間外に勤務させることがある。」と規定し、同条四項は「時間外勤務に対する賃金は、給与規程第一四条に定める。」と規定するとともに、被告の給与規程一四条は、これらの規定を受けて割増賃金の計算式を規定している。そして、このような条項の規定の仕方からすると、時間外労働に対する賃金の支払について、就業規則上、法定内時間外労働か法定外時間外労働かによって区別をしているわけではないから、法定内時間外労働についても割増賃金を支払う趣旨と考えられる。〔中略〕
 (証拠略)の給与規程は、昭和六〇年七月、天満労働基準監督署から是正勧告を受けて作成し、その際、従業員の意見の聴取や、従業員への周知をしていないことを認めることができる。
 しかし、従業員の意見聴取や周知の手続をとっていないからといって、そのことから直ちに給与規程の効力がないとはいえないし、そもそもこのような手続が必要とされたのは、就業規則の作成・変更について労働者の意見を述べる機会を与えようとする趣旨であるから、使用者が、そのような手続を経ていないことを理由に、その効力を否定することは許されないというべきである。
〔雑則-附加金〕
 被告が定額の勤務手当を支給しただけで、労働時間数に従った手当を支給していなかったことは、平成五年改正前労働基準法三七条一項に違反する。
 そして、被告は、原告らの時間外労働が常態化していたにもかかわらず、定額の勤務手当を支給しただけで、しかも、そのような状態を長期間放置していたことからすると、本件について、被告に付加金を課すのが相当というべきである。
 これに対し、被告は、従業員の業務の特質から、従業員の公平を確保するため、大多数の従業員の賛同を得て、時間外手当について定額の勤務手当による方式をとったのであり、原告を含め被告の従業員はこれを了解していたと主張する。
 しかし、〔中略〕定額の勤務手当に代えたのは、従業員間の公平の確保のみならず、人件費の抑制という面もあり、また、被告自身、従業員の時間外労働が常態化し、定額の勤務手当では、労働基準法に違反することを認識して、時間外手当の支給を検討していたことからすると、このような事情だけでは、付加金の支払を命じないとすることはできず、被告の主張は理由がない。
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 労働基準法四一条二号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、管理監督者に当たるかどうかは、その名称にかかわらず、実態に即して判断すべきである。そして、〔中略〕原告Xらが、それぞれの課や支店において、責任者としての地位にあったことは認められるものの、他の従業員と同様の業務に従事し、出退勤の自由もなかったのであるから、経営者と一体的立場にあるとまではいえない。
〔労働時間-事業場外労働〕
 被告は、原告らが、本訴請求期間の大半を事業場外労働に従事し、しかも、業務遂行や勤務時間を自ら決定していたのであるから、原告らが事業場外労働に従事した各労働日の労働時間を算定することは困難であるとして、労働基準法三八条の二第一項により、時間外労働自体存在しないと主張する。
 しかし、前記二1のような原告らの業務内容からすると、原告らの業務は、内勤業務を中心とし、外勤業務の割合は少なかったと考えられ、被告が主張するように、本訴請求期間の大半を事業場外労働に従事していたとはいえない。
 また、原告らが外勤業務の(ママ)従事した場合にもタイムカードへの打刻はなされ、原告らと同様の業務に従事していた契約社員は、タイムカードに基づいて時間外手当が支給されていたのであるから、原告らの勤務時間は、タイムカードによって把握できるし、実際にもタイムカードによって勤務時間が管理されていた。この点、被告は、原告らがその勤務時間を自ら決定していたと主張するが、仕事量の増大により、原告らの時間外労働が常態化していた労働実態に照らせば、そのようなことがないことは明らかであり、他に右主張を認めるに足る証拠はない。