全 情 報

ID番号 06893
事件名 損害賠償請求事件/貸室明渡請求事件
いわゆる事件名 岩井金属工業事件
争点
事案概要  組合掲示板の撤去、ビラ配布の妨害、仕事上の不利益取扱い、原告組合員らに対する懲戒処分・解雇など被告会社の一連の行為を不当労働行為であるとして、原告組合員らが、右会社に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
労働組合法7条3号
労働組合法7条1号
民法44条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1996年12月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 9666 
平成5年 (ワ) 9289 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例717号64頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 原告X1の解雇は、被告広沢の組合掲示板の撤去命令に対し、同原告が団体交渉による解決を求めたことを理由に行われたものであるところ、右のような原告X1の対応を解雇理由とすることができないことはいうまでもなく、被告Yの社長就任後の言動を考えあわせると、右解雇は、原告組合を著しく嫌悪する被告Yが、専ら原告組合及び原告X1に対し打撃を与えることを目的に行われたものであることが明らかであり、解雇権の濫用であり、かつ、労組法七条一号、三号の不当労働行為にも該当するというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 右各懲戒処分は、いずれも過失に基づく不良発生又は材料、金型等の破損につき、被告会社が不良報告書の提出を求めたのに対し、右両名がこれに抗議したこと、あるいは、団体交渉における解決を求めてその提出を拒否したことを理由に行われたものであるが、当時、原告組合に対し様々な不利益取扱いが行われ、特に不良報告書については、他の従業員の場合には問題とされない不良についても原告組合員にはその提出を要求されるような状況にあったことを考慮すると、右A書記長及びB副委員長の対応も無理からぬものがあるといわざるを得ず、B副委員長とともに作業していたCが処分されていないことをも考慮すると、右両名に対し、減給又は出勤停止の懲戒処分をしたことは、重きに失し、著しく不合理であるといわざるを得ないから、右各懲戒処分は懲戒権を濫用したものというべきである。〔中略〕
 右一連の懲戒処分は、いずれも重きに失するか、懲戒事由がないのに行われたものであり、短期間に原告組合の幹部であったB副委員長とA書記長に懲戒処分が集中していること、当時被告会社は、本件協定の解約通告をするなど、原告組合に対する不快感をあらわにしてその活動を制限しようとしていたこと等に照らし、度重なる懲戒処分を行った被告会社の行為は、不良発生に藉口してことさらに原告組合員に対して不利益な取り扱いをし、もって原告組合の活動に打撃を与えるために行われたものであると推認するのが相当であるから、いずれも労組法七条一号、三号に該当する不当労働行為である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 被告会社は、本件協定を破棄したことを理由に会社構内における一切の組合活動を無条件に禁止し、これに違反したことを理由に懲戒処分を繰り返したものであるところ、右のとおり、本件協定の破棄は効力を有しないのであるから、本件協定が破棄されたことを根拠として組合活動を禁止し、これに違反したことを理由として行われた前記各懲戒処分は、いずれも原告組合の正当な組合活動を妨害し、もって原告組合の弱体化を図ることを目的として行われたもので、懲戒権の濫用に当たるばかりでなく、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。
〔解雇-解雇事由-就業規則所定の解雇事由の意義〕
 (1) 被告会社の就業規則には、第二九条に、「勤務成績が著しく不良で一年を通じて自己欠勤が九〇日以上に及んだとき」には解雇する旨の規定がある。また、第三三条には、「業務外の傷病によって欠勤六か月以上にわたるとき」及び「家事の都合、その他やむを得ない事由で欠勤が引き続き三〇日以上に及んだとき」等には、休職とする旨の規定がある(〈証拠略〉)。
 ところで、右「自己欠勤」(中略)について、被告会社は、有給休暇を除く欠勤であり、病気欠勤を含む趣旨であると主張する。しかしながら、就業規則第三三条において、病気欠勤の場合は、欠勤が六か月以上にわたるときには休職にする旨定められているのであるから、六か月に達しない九〇日で解雇するというのは同条との関係上不合理であるといわざるを得ず、自己欠勤には病気欠勤は含まれないと解すべきである。これは、病気による欠勤は、本人の帰責事由が少なく、他の事由の欠勤と同様に扱うことは酷であるから、かような差異を設けることに合理性があること、第三三条においても病気欠勤とそれ以外のやむを得ない事由による欠勤との間に休職に至る要件において差が設けられていることからも、根拠づけることができる。〔中略〕
 (3) 被告会社は、病気欠勤が自己欠勤に含まれるとする解釈を前提に、原告X2の入社五年目の自己欠勤が九〇日以上に達し、就業規則第二九条(ハ)に該当する旨主張するところ、前記のとおり、病気欠勤は自己欠勤に含まれないと解すべきであるから、就業規則第二九条の要件を判断するに当たっては、欠勤日数のうち病気欠勤を差し引くべきである(中略)。
 また、被告会社による懲戒処分又は帰宅通知による欠勤は、これを解雇理由としての自己欠勤数に算入することは許されないことは明らかであり、また、ストライキによる欠勤も、それが違法なストライキであったことが立証されない限り、自己欠勤に算入することは許されないというべきである。
 以上の見地から検討するに、原告X2の風邪又は腹痛による一六日間の欠勤は、いずれも一週間以内の欠勤であって、診断書の提出が義務づけられている場合に当たらないから、病気欠勤と認めるべきである。また、前記のとおり懲戒処分又は帰宅通知による六日間の欠勤及びストライキによる一五日間の欠勤についても、自己欠勤に算入すべきではない(中略)。
 したがって、入社五年目の原告X2の自己欠勤日数は、多くとも七七日に過ぎないというべきであるから、就業規則第二九条の要件には該当せず、右を理由として行われた本件解雇は、無効である。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被告会社代表者の被告Y及びその余の被告らによって原告組合及びその組合員に対してなされた一連の行為は、不法行為を構成するので、被告会社は、民法四四条ないし同法七一五条により、不法行為責任を免れないというべきである。そして、被告会社とその余の被告らとの関係は、不真正連帯債務の関係にあるということができる。〔中略〕
 原告X1の解雇は、被告Yにより、同原告に対する明確な加害の意思をもって、極めて恣意的に行われたもので、不当労働行為であるに止まらず、原告X1の人格権又は労働基本権を侵害する不法行為を構成するというべきであるから、被告Yは、原告X1に対し、民法七〇九条の不法行為責任を負い、被告会社は、民法四四条により、同じく不法行為責任を負うというべきである。〔中略〕
 原告X3から班長としての仕事を取り上げたこと、原告X3を解雇したことは、いずれも、同原告に対する明確な加害の意思をもって行われたものであることが明らかであり、右は、不当労働行為であるに止まらず、同原告の人格権又は労働基本権を侵害する不法行為を構成するというべきであるから、原告X3の解雇を最終的に決定した被告Yは、原告X3に対し、民法七〇九条の不法行為責任を負い、また、被告会社は、民法四四条により、同じく不法行為責任を負うというべきである。