全 情 報

ID番号 06894
事件名 療養補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 丸亀労働基準監督署長事件
争点
事案概要  軽度の高血圧症を有する農協の女子職員が、給油作業中にガソリンを浴びた直後に頭蓋内に出血があるとして治療を受けたことにつき、右疾病を業務上であるとして監督署長の療養補償不支給処分を争った事例。
参照法条 労働基準法75条
労働者災害補償保険法1条
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 療養補償(給付)
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1997年1月14日
裁判所名 高松地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 8 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ950号186頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 1 労基法及び労災保険法による労働者災害補償制度の趣旨は、使用者が被用者を自己の支配下において労務を提供させるという労使関係の特質から、業務に内在ないし随伴する危険性が現実化して被用者に傷病等をもたらした場合には、使用者の過失の有無にかかわらず、その危険を負担させて損害填補の責任を負担させようとするところにあると解されるところ、労基法及び労災保険法が労災補償の要件として、労基法七五条、七九条等に「業務上負傷し、又は疾病にかかった」と、労災保険法一条に「業務上の事由により」と規定するほか、何ら特別の要件を規定していないことからすると、業務起因性があるというためには、業務と疾病発症との間に相当因果関係の認められることが必要であり、かつ、これをもって足りるものと解するのが相当である。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
 2 以上の事実を基礎に本件疾病発症と業務との因果関係につき判断する。
 (一) 前記認定のとおり、原告は、給油所の業務のほか、農協の共済事業、経済事業等の各種の推進業務に従事していたが、右業務がそれ自体過重なものであったと認めるに足りる証拠はない。
 しかし、前記(二)で認定した事実によれば、原告は、本件疾病発症の約二週間前の香港出張により極度に疲労し、右疲労を蓄積させたまま、出張に伴う事務の停滞のため帰国後は農協の事業推進業務を集中して行うことを余儀なくされ、さらに三月からの業務の電算化に対する精神的負担も加わって、本件疾病発症当時は相当程度疲労を蓄積させた状態にあったことが認められる。
 (二) 前記認定の本件疾病の発症経過及び証人Aの証言によれば、本件疾病は本件ガソリン被浴を原因として発生したものであることが認められる。〔中略〕
 給油所において業務中にガソリンが吹き返すこと自体はしばしば発生していることが認められるけれども、他方同証拠によれば、ガソリンが目や鼻に入った場合は目を開けられないほどの痛みがあること、吹き返し事故の多くは衣服にガソリンがかかる程度のものでたいしたものではなく、原告自身も手足にガソリンがかかった程度の経験しかないことが認められる。右事実に前記認定のとおり原告が被浴したガソリンの量は約一リットルと多量であって、しかも原告は給油口をのぞき込んだ状態で、頭部、顔面を中心として全身にガソリンを浴びていて、しかもかなりの量のガソリンを吸入しており、直後に診察した医師はガソリン中毒を疑うほどの状況であって、このような状況でガソリンを浴びることは給油所においてもしばしば発生する事態ではないと考えられること及びガソリンが目や鼻に入った場合は激しい痛みが発生することに照らせば、本件ガソリン被浴は原告に極度の精神的緊張をもたらす異常な事故であったと認められる。そして、前記認定のとおり原告は本件疾病発症当時軽度の高脂血症を指摘されていたにとどまり、それ自体で本件疾病を引き起こすに足りる程度の基礎疾患は有していないことを考慮すれば、平均的労働者のうちで最下限の健康状態にある者にとって危険か否かという前記基準に照らしても、本件ガソリン被浴は本件疾病発症の相対的に有力な原因となったものと認めるのが相当である。
 この点、被告は、原告がガソリン被浴後、作業の交替を同僚に頼み、炊事場でガソリンを洗い流すなどの適切な事後措置を迅速かつ冷静に行っていることから、ガソリンの被浴は極度の精神的又は肉体的負荷を与える出来事とは認められないと主張するが、突発的事故により目や鼻に激しい痛みを生じた場合一刻も早くその原因を除去しようとするのは当然の行動というべきであるから、原告が右のような行動に出たことをもって当該事故の与える精神的肉体的負荷が軽かったということはできない。
 (三) 以上のとおり、本件疾病は軽度の高脂血症という基礎疾病が、業務上の香港への研修旅行等による疲労の蓄積及び業務中のガソリンの被浴という過重な事故により自然的経過を超えて著しく増悪した結果であると認めることができるから、業務と本件疾病との間には相当因果関係が認められるというべきである。