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ID番号 06914
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 安田病院事件
争点
事案概要  病院内で付添婦として働いていた原告が、病院との間で労働契約が成立していたとして労働契約上の地位確認、賃金の支払を求めた事例。
参照法条 民法623条
労働基準法9条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 成立
裁判年月日 1997年2月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 6465 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例715号70頁/労経速報1629号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 1 原告は、平成三年三月九日ころから、三度にわたり被告病院の事務長と名乗るAの面接を受けた上、遅くとも平成三年三月一五日には被告病院の看護補助者として原告主張に係る契約条件で勤務することになった旨主張し、原告本人も同旨の供述をする。
 この点、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、Aが原告と面談し、原告の付添婦としての経験の有無や付添婦の条件等につき原告との間で会話を交わした事実は認められるが、他方、証拠(略)によれば、右Aが被告病院の事務職員に過ぎず、同人が労働契約を締結する権限まで有していなかったこと、Aとしては原告が付添婦となることを希望して、たまたま直接被告病院へ足を運んだことから、原告からの質問に対し、被告病院に勤務する者として、権限はないものの、知っている範囲で、事実上の応答をし、立ち話として、原告と前記の会話を交わした他に、付添婦となるには、B紹介所を介する必要があるなどと答えたに過ぎないと認められることなどにかんがみれば、右は、採用のための面接というには程遠いものであって、単なる立ち話というべきものであるというべきであるから、右面談が実施されたとの事実から直ちに原告主張の労働契約締結の事実が推認されるものではない。〔中略〕
 原告は、従前、訴外C病院で、直接病院と交渉した上、看護補助者として雇用された経験を有していたことから、病院と直接交渉した本件でも右と同様に雇用関係を形成する意思であった旨主張するが、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、平成三年ないし四年当時、原告は、それまでの付添婦の経験等から、右時期に基準看護を実施していない私立病院で特定患者の付添看護担当者(付添婦)を職員として雇っている病院は存在しないとの認識だったこと(右当時、原告は、同僚の付添婦らとの会話等を通じて被告病院が基準看護を実施していない私立病院であることを知っていたこと)が認められ、これらの事実に前記認定事実を総合すれば、特定患者の付添をしていた原告が被告との間で真実雇用関係形成の意思を有していたかについては大いに疑問があり、原告の右主張はにわかに採用できない。そもそも、原告の主張のとおり原告が被告の職員である看護補助者として採用されたとすると、多数ある付添婦のうち、ひとり原告のみが他の付添婦とは地位及び待遇面で異なっていたことになるが、かかることは、他の付添婦との仕事内容の同一性、被告病院の経営及び人事管理上の施策の一貫性からみて、不自然であって、到底肯認することはできない。〔中略〕
 以上認定に係る事実によれば、原告は、被告との間に労働契約関係になく、患者との契約関係に過ぎないということができる。すなわち、原告は、労働契約の成立により、被告の従業員となった旨主張しながら、契約書など、これを認めるに足りる十分な証拠が存しないばかりか、原告が被告病院において、入院患者の付添に従事していた間に、被告に対し、積極的に他の従業員と同様の地位と取扱いを求めるなど一切しておらず(原告は、Aに対し、賃金について、採用時の契約条件と違う旨の異議を申し入れたと主張するが、これを認めるに足りる十分な証拠はない。真に、原告の賃金額が採用時の契約条件と違っていたのであれば、原告は、被告に対し、継続的に異議を申し入れて当然であるが、かかる事実は全くない。なお、本件において、原告は、原告が被告に対し、従業員としての地位と取扱いを求めて抗議を申し入れるなどしたと主張することさえない。)、他の付添婦と同様の地位と取扱い(なお、原告は、被告病院で付添いをした付添婦全員が被告の従業員であるとまで主張するものではない。)を受けることにさしたる疑問も感じることなく付添業務に従事していたことにかんがみ、原告自身、他の付添婦と同様、被告との間に労働契約関係になく、患者と契約関係にあるに過ぎないことを十分に認識していたということができる。なお、前記認定のとおり、被告により、原告ら付添婦全員に対し、事実上の支配関係ともいうべき一定の関係が存するが、それは、原告を含む付添婦全員に対し、共通のものであって、原告固有のものではないし、右関係は、あくまでも、原告ら付添婦が被告病院において、その入院患者の付添いに従事することから、被告が患者の後見的な立場にあって、より充実した付添看護を受けることができるよう、また、その地位が不利となったりしないよう一定の配慮等をするために形成されていたに過ぎないというべきであるので、右関係が存するからといって、右認定を左右するものではない。結局、原告は、他の付添婦は(ママ)患者と契約関係にあったに過ぎないというべきである。